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インハウスレポート

黒田 修平 Shuhei Kuroda (69期)

はじめに

私は、司法修習終了後、そのまま東京都庁に入庁し、現在は法律事務所で執務しています。
自治体内の法曹有資格者というと、ほとんどが弁護士の任期付職員ですが、私は新卒で入庁した職員と同じく、公務員試験を受験して、事務職の常勤職員として入庁し勤務していましたので、本稿が、法曹有資格者のバックグラウンドを持って自治体職員として働きたいと考えている方の一助になればと思います。

「なぜ自治体の職員に?」

「はじめに」を読んでこんな疑問が頭に浮かんだ方も多いのではないでしょうか。
実際、修習中は都庁に入るか、法律事務所で働くか悩みました。ではなぜ都庁に入ったかといえば、その理由は色々ありますが、一つ挙げるとすれば「任期付職員じゃない弁護士ってあまりいないし、多くの弁護士が経験したことのないことを経験できるんじゃないか?」というところでした。

入庁後の業務について

最初の配属先は、都の訴訟を担当している部署でした。「なんだ弁護士業務じゃないか」と思われるかもしれませんが、部署内には、訴訟に長く携わっている職員(法曹資格を持っている職員も複数名います)や働きながら司法試験に合格した職員のように法的素養のある職員だけでなく、訴訟については詳しくないものの行政実務に長く携わってきた職員もおり、それぞれの職員が強みを出し合って仕事を進めていくのは充実感がありました。また、訴訟を通じて適正な行政運営を支えることにやりがいも感じていました。
その後私は、コンプライアンス担当部署に異動することになり、不祥事案件の調査や内部通報対応のほか、当時地方自治法の改正により導入された内部統制制度の企画業務に従事することになりました。
内部統制制度の企画業務は、いわば白いキャンバスに絵を描いていく作業で、他の部署にどのような作業をお願いし、その作業結果をどのように分析し、どのような成果物を作成するかということを一から考える業務でした。企画業務における頭の使い方や説明資料の作り方など、上司から学ぶことが多かったです。

平職員の難しさ

弁護士が任期付職員として自治体で働く場合、職級は課長級であることが多いです。他方、私は前述のとおり、新卒の職員と同じように公務員試験を受験して入庁しているので、管理職でも専門職でもない平の職員でした。
基本的には、管理職は方針決定することが職務で、平職員である一般職は決定した方針に基づいて業務を進めることが主な職務です。なので、ある業務の方針について色々考えがあっても、自分に情報が降りてくる頃には、既に方針が決まっているということも少なくありません。
弁護士経験があり、その経験を活かしたいと思っていても、平職員の場合は難しい場面もあるかもしれません。

法律事務所との働き方の違い

組織内弁護士を志す理由として、「ワークライフバランスを実現したい」という理由を挙げられる方も多いのではないでしょうか。
確かに、法律事務所だと、依頼者の都合等により土日も働かなければならないこともあり、自治体は基本的に土日が休みであることを考えると、その意味ではワークライフバランスはとりやすいかと思います。
ただ、私用で一旦外出して、戻ってきて仕事をするといった場合に、時間単位の年休を取得しなければならないなど時間の融通は利きにくく、窮屈に感じるかもしれません。
また、ワークライフバランスがとりやすいからといって、仕事の負担が軽くなるかといえば、そうではないと思います。
自治体での業務は、多数の関係者の協力を得なければ前に進めることができません。例えば、訴訟を提起するとなれば、決裁を回す上司はもちろん、当該事業の担当部署、予算担当部署等と協力する必要がありますし、さらには、議会(自治体が訴え提起をするには、原則として議会の議決が必要です)も関わってきます。
このように一つの業務を進めるのに、多数の関係者が登場することから、役所の業務は「調整が重要」なわけですが、各部署等と調整をしながら仕事を前に進めることは、法律事務所での業務とは違う大変さがあると思います。

外部との関わり

都庁では、弁護士登録が認められていないため、弁護士会との関わりはほとんどありませんでした。
他方、法曹資格を持つ自治体職員が参加できる勉強会は複数あり、私も当時いくつか参加していました(そして今も参加しています)。参加する度に新たな発見があり、自治体法務の面白さを実感できるのではないかと思いますので、インターネット等で検索して、参加してみてはいかがでしょうか。

結びに代えて

私が公務員だったとき、弁護士の友人から「公務員って自分が希望していない部署でも異動させられるから嫌だ」と言われたことがあります。公務員に限らず、組織内弁護士として働くことを検討するにあたって、「自分の希望に反する異動」を懸念される方は少なくないのではないかと思います。
私自身、異動は自分の引出しを増やすチャンスだと考えていたので、あまり否定的な考えを持っていませんでした。
実際、内部統制制度の企画業務は、弁護士業務ではなかなか経験できないとても貴重なものでしたし、また、少し話は変わりますが、平の職員でしたので、複合機のリース契約等の契約事務やプレス発表に係る事務等の庶務も経験しましたが、法律や規則の運用や当該事務のスケジュール感など業務を通じて体感することができました。
自治体側が本人の適正や経験等を見極めて配置管理をしていくことは当然必要ですが、自治体に入る弁護士も与えられた業務から得るものを見つけて、成長につなげていく、そんな考え方のできる方が、自治体内の弁護士職員として活躍できるのではないかと思います。