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消費者契約法の基礎知識(後編)

前編はこちら

4.意思表示の取消し(第4条)

2 困惑類型

(6)霊感等による知見を用いた告知(第4条3項6号)

これはいわゆる霊感商法といわれる勧誘方法を規制するものです。
「霊感その他の合理的に実証することが困難な特別な能力による知見として」ということですが、ここでいう「霊感」は除霊とか災いの除去や運勢の改善等、超自然的な現象を実現する能力をいい、「特別な能力」は超能力等を指しています。
その上で「そのままでは当該消費者に重大な不利益を与える事態が生ずる旨を示してその不安をあおり」ということになります。「重大な不利益」は、特に財産上のものに限られていません。
また「不安をあおり」については、その告知内容が漠然とした内容のものであったとしても、具体的な事情によっては、この取消事由に該当する場合があります。告知内容が漠然としたものでも、それを何度も繰り返したり、強い口調で告げたりという態様も含めて考えると、その告知が不安をあおるものに該当するという場合もあり得ます。
さらに「契約を締結することにより確実にその重大な不利益を回避することができる旨を告げる」ということで、これもほかの取消事由と同じように口頭以外の方法でも該当し得ることになります。
事例を挙げておきます

資料10 ②困惑類型(ⅵ霊感等による知見を用いた告知)
【事例】
○「私には霊が見える。あなたには悪霊がついており、このままでは病状が悪化する。この数珠を買えば悪霊が去る」と告げて、高額な数珠を購入させた。
○「私には未来が見えるのだが、このままでは3年後に子供が家出する。この壺を持っていれば、反抗期は収まるし、家出もしない」と告げて、高額な壺を購入させた。

まず事例の1つ目です。「私には霊が見える。あなたには悪霊がついており、このままでは病状が悪化する。この数珠を買えば悪霊が去る」と告げて、高額な数珠を購入させた。
2つ目が「私には未来が見えるのだが、このままでは3年後に子供が家出する。この壺を持っていれば、反抗期は収まるし、家出もしない」と告げて、高額な壺を購入させた。
いずれもこの取消事由が想定している典型的なケースといえます。

(7)契約締結前に債務の内容を実施(第4条3項7号)

まず、この類型は契約を締結する前の行為を規制するものですので、当然ですが、消費者が「契約の申込みまたはその承諾の意思表示をする前に」ということが必要となります。
次に、事業者が「契約を締結したならば負うこととなる義務の内容の全部または一部を実施し」ということですが、契約を締結した場合に事業者が通常実施する行為であるか否かで判断することになります。事業者が通常実施する行為であるか否かは、契約を勧誘する時点では必ずしも明確になっていない場合もありますので、その後に実際に締結した契約の義務内容と同じである必要はないとされています。
さらに「実施前の原状の回復を著しく困難にする」ということですが、原状回復を物理的に、または消費者にとって事実上不可能とすることがこれに当たります。原状回復のために専門的な知識・経験や特殊な能力が必要という場合は、消費者にとって原状回復が事実上不可能な場合に該当するといわれています。その場合にも一般的・平均的な消費者を基準として判断することになります。
ここでも事例を挙げておきます。

資料11 ②困惑類型(ⅶ契約締結前に債務の内容を実施)
【事例】
○事業者が、注文を受ける前に自宅の物干し台の寸法に合わせてさお竹を切断し、代金を請求した。
○スーパーの鮮魚コーナーで仕入れた鮮魚を普段から一口大の刺身にして販売している事業者が、鮮魚を切り分けて刺身にした上で値段を告げ「いかがでしょうか」と勧誘し、消費者は、その刺身にされた鮮魚を購入することにした。
○ガソリンを入れようとガソリンスタンドに立ち寄ったところ、店員が「無料点検を実施しています」と言いながら、勝手にボンネットを開けてエンジンオイルも交換してしまった。断ることができず、エンジンオイルの費用を支払ってしまった。

1つ目は時代的に古いと思いますが、分かりやすい例としてこれを挙げました。このケースについては、さお竹を切断する行為は、消費者がさお竹を購入する場合には、事業者が通常実施する行為といえます。先ほどの事業者が通常実施する行為に当たります。そして、さお竹を切ってしまいますと、物理的に原状回復が困難になりますので、このケースは取消事由に当たると考えられます。
2つ目は、事業者が仕入れた鮮魚を普段から刺し身にして販売しているとのことですので、このような行為については、「契約を締結したならば負うこととなる義務」には該当せず、この場合、取消しは認められないことになります。
3つ目は、新しいオイルを抜き取り古いオイルを入れ直すことは、物理的には可能ですが、オイル交換のためには一定の技術や経験、特殊な道具等が必要となりますので、一般的・平均的な消費者にとって、オイルを元に戻すことは事実上不可能ということで、この場合、取消しは可能になります。

(8)契約を目指した事業活動の実施による損失補償請求等の告知(第4条第3項8号)

まず、これも契約締結前の勧誘行為を規制するもので、契約締結前に「事業者が調査、情報の提供、物品の調達その他の当該消費者契約の締結を目指した事業活動を実施」したことが必要です。「契約の締結を目指した事業活動」としては、商品の説明やそのための遠隔地から消費者の自宅への訪問等が当たるといわれています。
「当該事業活動が当該消費者からの特別の求めに応じたものであったことその他の取引上の社会通念に照らして正当な理由がある場合でないのに」という要件がありますが、この特別の求めといえるためには、信義に反する程度の要求に至っていることが必要とされます。
消費者が契約締結の意思決定をするに当たり、事業者が一定程度商品の説明等をするのは一般的にみられるものですので、そのような行為を除外した信義に反する程度の要求が必要とされます。
その上で「当該事業活動が当該消費者のために特に実施したものである旨及び当該事業活動の実施により生じた損失の補償を請求する旨を告げる」ことが要件とされています。「損失の補償を請求する」という点は、「これまでかかった費用を払ってくれ」と直接的に請求するだけではなくて、「契約してくれなければ大損」とか、「時間をかけて説明したから契約しないのであれば時間を返してくれ」という形で間接的に補償を求めることでも、該当するといわれています。
事例を挙げます。

資料12 ②困惑類型(ⅷ契約を目指した事業活動の実施による損失補償請求等の告知)
【事例】
○マンション投資の勧誘で会ってほしいと言われ会ったが、事業者は他都市の者で「あなたのためにここまで来た、断るなら交通費を払え」と告げて勧誘した。
○廃品回収の事業者が、消費者の求めに応じて4階の自宅まで上がってきた。消費者が廃品回収の値段を聞いて断ると、「わざわざ上の階まで来た。4階まで上がった分の手間賃を支払え」と言われたので、契約してしまった。

1つ目のケースですが、まず事業者が消費者に説明するために移動すること自体は、契約の締結を目指した事業活動に該当すると思います。断るなら交通費を払えというのも、損失の補償を請求することに該当します。
その上で、もちろんこれは距離にもよりますが、離れた消費者のところに説明のために移動することは、一般的には、特別の求めに応じたとまではいえないと思われますので、この場合は取り消し得ると思われます。
2つ目のケースも、まず事業者が4階にある消費者の自宅まで上がっていくことは、契約の締結を目指した事業活動に該当します。
また、事業者が4階まで上がった分の手間賃を支払えということも「損失の補償を請求」に該当します。ただ、4階の自宅まで来てくださいとお願いすることが、一般的に特別の求めとまではいえませんので、この場合も取り消し得ると思います。

3 過量契約取消(第4条第4項)

大きく分けて3つあるとお話しした取消類型の3つ目が過量契約取消です。
これは、事業者が契約の勧誘をするに当たり、契約の目的物の分量や回数等が、消費者にとって必要な量を著しく超えていることを知った上で契約をさせた場合に、消費者がその契約を取消すことができるというものです。
この条文は高齢者等、合理的な判断ができない事情がある消費者に対して、それにつけ込んで不必要なものを大量に買わせるという消費者被害が増加したことに伴い、平成28年改正で追加されたものです。
この過量契約取消には大きく分けて2つあります。
まず1つ目の基本形が、当該契約の目的物の分量等が「当該消費者にとっての通常の分量等」を「著しく超える」ことを事業者が知っていた場合に取り消すことができるというものです。
この「通常の分量」をどう判断するのかということですが、これは契約の内容、目的物の種類や消費者の生活状況等を総合的に考慮した上で判断します。一般的に通常の分量を超える、これを過量性といいますが、認められやすいものとして、まずは生鮮食品が挙げられます。生鮮食品はすぐに消費しないと価値がなくなりますので、過量性が認められやすいといえます。そのほかには自転車が挙げられます。自転車には保管場所が必要になりますので、過量性が認められやすいとされています。さらに布団も1人の消費者が通常必要とする量が限られていますので、この場合も過量性が認められやすくなります。
逆に過量性が認められにくいものとしてよく挙げられるのが缶詰食品です。缶詰のように長期的に保存することが前提とされているものについては、過量性は認められにくいといわれています。
そのほかには金融商品がよく挙げられます。金融商品は保有すること自体を目的として購入される場合が多いので、これも過量性が認められにくいといわれています。
2つ目は、すでに「同種契約」を締結していた場合です。この場合には、同種契約の目的物と当該契約の目的物を合算して、分量が過量かどうかを判断することになります。同種契約なのかどうかということは、事業者側が示している契約の種類で判断するのではなく、その契約の目的や性質等に照らして客観的に判断します。
続いて事例を挙げます。

資料13 ③過量契約取消
【事例】
○スーパーに自分の夕食のおかずに買いに来た一人暮らしの消費者が、マグロの刺身20人前を自らレジに持参し、店員とは特に話すことなく、それを買っていった。
○健康食品を販売している事業者が、来店した高齢の消費者に対し、賞味期限が1年の健康食品を1年分販売した。その際、消費者は、一人暮らしで身寄りもなく、近所付き合いもほとんどないということを話していた。翌日、再度消費者が来店したため、事業者が「昨日はどうも」と話しかけたところ、消費者は認知症であり、昨日1年分の健康食品を購入したことを忘れてしまっていた。それに気付いた事業者が、さらに1年分の同じ健康食品の購入を勧めたところ、消費者はこれを購入した。

 まず1つ目のケースは、そもそも勧誘行為がなく、店員とも特に話していませんので事業者側が過量であることを知っていたともいいにくく、この場合は取消しが認められないと思われます。
2つ目は取消しが認められると思われる典型的なケースです。検討していきますと、この消費者は高齢で一人暮らしで身寄りもなく、近所付き合いもないということですので、賞味期限1年の健康食品は1年分あれば十分ということがいえます。よってその翌日にさらに1年分を購入することは、通常の分量を著しく超えると評価できます。
また、事業者は最初のときにいろいろ話をして、消費者の状況について知っていたにもかかわらず、さらに1年分を購入するよう勧誘したということです。事業者としては消費者にとって過量となることを認識した上で勧誘をしたということですので、この場合は2日目に購入した契約については取り消すことはできると考えられます。
以上が取消類型についての説明でした。

4 その他

(1)取消権行使の効果

取消権の行使は、善意無過失の第三者に対抗することはできません。また善意の消費者は現存利益の返還で足りるとされています。他方で事業者の返還義務については特に限定するような規定はありません。

(2)媒介の委託を受けた第三者による勧誘

事業者が委託した第三者による勧誘行為もこれまで説明した規制の対象となります。よくあるケースとして旅行代理店や不動産仲介業者による勧誘がこれに当たります。このような委託を受けた第三者による不当な勧誘行為があれば、委託元の認識を問わず取消しが可能となります。

(3)取消権の行使期間

取消権の行使期間は、追認し得るときから1年間、契約締結時から5年間という制限があります。追認し得るときから1年間の起算点としては、まず誤認類型の場合は消費者が誤認をしていたことに気付いたときから1年間といわれています。
続いて困惑類型の場合は、消費者が困惑状態から脱したときから1年間になります。最後に過量取消の場合には、消費者がその契約が過量な内容のものであることに気付いたとき、もしくは過量なものであるのに気付いていたが、断りづらくて購入してしまった場合には、その勧誘が終了したときが起算点になります。
以上で意思表示の取消しの説明を終わります。

5.不当条項の無効(第8~10条)

初めにお話ししましたとおり、消費者と事業者の間には情報や交渉力に格差がありますので、そのような状態で自由に契約をさせてしまうと、どうしても事業者が一方的に有利な契約になり、消費者の権利が不当に制限される場面が起きてしまいます。
不当条項の無効とは、そのような場合に、事業者に一方的に有利な条項の効力を否定して消費者の利益を保護するものです。無効となる不当条項の類型は5つありまして、下線部分が平成30年改正で追加されたものです。

資料14 無効となる不当条項の類型
①事業者の損害賠償責任を免除又は事業者が自分の責任を自ら決める条項(第8条)
②消費者の解除権を放棄又は事業者が消費者の解除権の有無を決める条項(第8条の2)
③消費者の後見のみを理由とする解除条項(第8条の3)
④消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項(第9条)
⑤消費者の利益を一方的に害する条項(第10条)

8条が事業者の免責に関するものです。8条の2が消費者の解除権、8条の3が事業者の解除権に関するものです。9条は消費者の責任を加重する条項に関するもので、10条がこれら4つ以外の消費者に一方的に不利になるような条項について包括に定めた規定になります。
それでは順番にみていきたいと思います。

(1)事業者の損害賠償責任を免除又は事業者が自分の責任を自ら決める条項(第8条)

この規定は消費者が事業者の債務不履行や不法行為により損害を受けた場合に、きちんと正当な額の損害賠償請求ができるようにするものです。特約により事業者の責任を免除あるいは制限しているものがある場合には、その特約の効力を否定するという内容の規定となります。
その内容としては、まず大きく債務不履行責任と不法行為責任について規定していて、1項の1号と2号は債務不履行責任についてのもの、3号と4号が不法行為責任についてのものになります。
債務不履行責任、不法行為責任、いずれも、事業者の責任を全部免除する条項、事業者の責任の有無について事業者自らが決定する権限を付与する条項は、無効になります。これは1号と3号です。
その上で故意・重過失がある場合については、責任を一部でも免除する条項、事業者の責任の限度を決定する権限を事業者自身に与える条項についても無効となります。これが2号と4号です。
2項は有償契約での債務不履行の場合の例外を定める規定で、損害が生じた際に、その代金を減額する等の規定があれば第1項の規定が適用されないという内容になります。
事例を挙げます。

資料15 ①事業者の損害賠償責任を免除又は事業者が自分の責任を自ら決める条項(第8条)
【事例】
○「いかなる理由があっても一切損害賠償責任を負わない。」
○「いかなる理由があっても事業者の損害賠償責任は○○円とする。」
○「通常損害については責任を負うが、特別損害については責任を負わない。」
○「事業者は一切損害賠償責任を負わない。ただし、事業者の調査により事業者に過失があると認めた場合には、事業者は一定の補償をするものとする。」

1つ目は事業者が一切損害賠償責任を負わないというものですが、これは事業者の責任を全部免除するものですので1項の1号、3号により無効になります。
2つ目は事業者の責任の一部を免除するものです。これが故意・重過失の場合には1項2号・4号で無効となり得ます。ただ、軽過失の場合に一部免除をすることは、無効とはなりませんので、軽過失の場合の一部を免除するという限度では有効となります。
3つ目も2つ目と同じです。事業者の責任の一部を免除するものになりますので、故意・重過失の場合には無効となりますが、軽過失の場合には一部免除するという、その限度では有効になります。
4つ目は、損害賠償責任の発生要件である過失の有無について、事業者にその責任の有無を決定する権限を付与するということで、1項1号・3号により無効となります。

(2)消費者の解除権を放棄又は事業者が消費者の解除権の有無を決める条項(第8条の2)

この条項は平成28年改正により新設されたものです。
内容としては、消費者の解除権を放棄させるもの、及び事業者に解除権の有無を決定する権限を付与するものは無効とするものです。後者は、平成30年改正で追加されたものです。
「消費者の解除権を放棄」という文言になっていますので、解除権を制限する条項、たとえば解除権の行使期間を限定する、解除が認められるための要件を加重する、解除権は認めるが、その解除権の行使方法について制限をするといった条項は該当しないことになります。
事例としても挙げています。

資料16 ②消費者の解除権を放棄又は事業者が消費者の解除権の有無を決める条項(第8条の2)
【事例】
○「いかなる場合でも契約後のキャンセル・返品は一切できません」
○「事業者に過失があると事業者が認める場合を除き、注文のキャンセルはできません」

「いかなる場合でも契約後のキャンセル・返品は一切できません」「事業者に過失があると事業者が認める場合を除き、注文のキャンセルはできません」というものです。
1つ目は消費者の解除権を放棄させるもので無効、2つ目については、消費者の解除権の有無について事業者に決定する権限を付与するものですので、これも無効となります。

(3)消費者の後見等を理由とする解除条項(第8条の3)

事業者に解除権を付与する条項は、事業者が一方的に自分の都合のいいときに契約を打ち切ることで、それにより消費者が契約関係からの離脱を強いられることになります。一方的に消費者の権利を制限し、または義務を加重してしまう条項と同様に考えられ、消費者保護の必要性が高いといわれています。
その中でも消費者の後見等の開始を理由とするものは、そもそも後見等の制度の趣旨を没却するものですので、平成30年改正により、この条項が加えられました。この条文により想定される主なケースとしては、建物の賃貸借契約とかインターネットの利用契約等の、継続的にサービスを受ける契約です。
ポイントとしては「のみを理由とする」という部分です。後見等の審判を受けたことのみを理由とするとのことですので、個別に状況の確認等を行った上で解除すること、そういう可能性まで排除するものではないことになります。
事例としても挙げておきます。

資料17 ③消費者の後見等を理由とする解除条項(第8条の3)
【事例】
○賃借人が成年被後見人になる場合には、直ちに賃貸人は賃貸借契約を解除できる

「賃借人が成年被後見人になる場合には、直ちに賃貸人は賃貸借契約を解除できる」というものです。これはまさにこの条項が想定しているケースで、無効になります。

(4)消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項(第9条)

まず第1号で「当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、または違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの」については、当該超える部分は無効になるとされています。
また、第2号で「当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部または一部を消費者が支払期日(支払回数が2以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、または違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払いをする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうちすでに支払われた額を控除した額に年14.6%の割合を乗じて計算した額を超えるもの」については、その超える部分は無効となるとされています。
条文だと分かりづらいですが、大きく分けて、解除に伴う損害賠償や違約金についての定めと、金銭債務の遅延損害金についての定めになります。
第1号が、解除に伴う損害賠償・違約金についてのもので、「解除に伴う」とありますので、解除を前提としない損害賠償や違約金は、この9条の対象になりません。解除を前提としないものは、後で述べる10条の対象となり得ます。
次に「平均的な損害」ですが、同一事業者が締結する多数の同種契約事案について、類型的に考察した場合に算定される平均的な損害額をいい、これは、その事業者が属している業種における業界の平均という意味ではなくて、あくまでもその契約の当事者となる当該事業者に生じる損害の平均ということで判断されることになります。
そして、当該超える部分については無効ということで、平均的な損害を超える部分のみ無効になります。
第2号の遅延損害金については、金銭債務の遅延損害金の上限を年14.6%に定めた内容です。
事例を挙げています。

資料18 ④消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項(第9条)
【事例】
○「契約後に中途解約を希望される場合、解約手数料○○円をいただきます」
○「毎月の家賃は当月20日までに支払うものとする。期日を過ぎた場合には、1か月の料金に対し年30%の遅延損害金を支払うものとする。」
○「期限までに返却されない場合には、1日当たり300円の延滞料を申し受けます。」

1つ目は解約、解除に伴う手数料ですので本条の適用があります。解約手数料の金額については、先ほどの平均的な損害がポイントとなります。当該事業者に生じる平均的な損害を超える部分だけが無効ということで、このケースでいうと手数料の金額により、いくら無効になるのかが変わってきます。
2つ目は先ほどの9条2号で遅延損害金の上限は年14.6%に定められていますので、それを超える部分については無効になります。
3つ目は期限に返却されないということなので、何か商品をレンタルしたということですが、先ほども述べたように9条は解除に伴う損害賠償請求とか違約金についての上限を定めるものですので、解除を伴うものではないこのケースは本条の適用外となります。また金銭債務でもありませんので、2号にも当たらず本条の問題にはならないことになります。

(5)消費者の利益を一方的に害する条項(第10条)

この規定が、不当条項規制の一般的・包括的な条項というものとなります。
まず「法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して」ということですが、この「公の秩序に関しない規定」とは任意規定のことです。
次に、「消費者の権利を制限しまたは消費者の義務を加重」するという点については、特約がある場合とない場合とを比較して、消費者の権利を制限しているか、もしくは義務を加重しているかということを判断することになります。本条で対象となり得る条項として、条文では「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込またはその承諾の意思表示をしたものとみなす条項」が例として挙げられています。この例はもともと入っていませんでしたが、平成28年改正で追加されました。この「消費者の不作為をもって契約の申込とみなす」という条項のある契約としてよくある例としては、ウォーターサーバーのレンタルとミネラルウオーターの宅配の契約です。無料のお試し期間中にウォーターサーバーをレンタルしていたが、その期間が終わってもサーバーを返却しないという場合に、それをもって消費者の申込の意思表示とみなして自動的に有料の契約に移行するものについては、この例示に当たります。
最後に「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」ということですが、消費者が本来有しているはずの利益を、信義則に反する程度に両当事者の衡平を損なう形で侵害することが必要とされています。単に消費者の権利を制限したり、義務を加重するだけではこれには該当せず、信義則に反する程度の権利侵害や、義務を加重するというものが必要になります。
事例を挙げます。

資料19 ⑤消費者の利益を一方的に害する条項(第10条)
【事例】
○事業者からの解除・解約の要件を緩和する条項
○事業者の証明責任を軽減し、又は消費者の証明責任を加重する条項
○消費者の権利の行使期間を制限する条項
○消費者の生命、身体の侵害による事業者の損害賠償(軽過失)を一部免除する条項

 1つ目が事業者からの解除・解約の要件を緩和する条項。2つ目が事業者の証明責任を軽減し、又は消費者の証明責任を加重する条項。3つ目が消費者の権利の行使期間を制限する条項で、これは例えば解除権の行使期間です。4つ目が消費者の生命、身体の侵害による事業者の損害賠償(軽過失)を一部免除する条項です。これらは、説明してきました8条〜9条までの類型にはいずれも該当しないものです。それらであっても、この10条によっては無効となり得る余地があるということです。
10条により無効となるかどうかについては、契約の目的や商品、対価等の取引条件や契約の類型、消費者または消費者の状況、そういうものを総合考慮した上で判断していくことになります。今回挙げたのは、あくまでこの10条で無効となる余地があるもので、実際に無効となるかどうかは具体的な事例に即して判断していくことになります。
以上が不当条項の無効の説明になります。

6.消費者団体訴訟制度

簡単に概要だけ述べます。
まず消費者団体訴訟制度とは何かといいますと、消費者に被害が生じている場合や生じる恐れがある場合に、内閣総理大臣が認定した消費者団体が、消費者全体の利益のために訴訟の当事者となり訴訟を行う制度です。
消費者契約法上は差止請求という制度があり、消費者契約法に反する不当勧誘や不当条項、これまで説明してきたものの使用の差し止めを求めるというものになります。
そのほか消費者裁判手続特例法というもので被害回復の手続きを行うことがあります。これも多数の消費者に共通して生じた財産的被害の集団的な回復を消費者に代わって求めるというものです。最近ですと大学の医学部入試において性別等でいろいろ不利益を被った受験生がいるということで、被害回復の訴訟手続が行われています。
当会の消費者委員会では、令和2年3月に新しく『消費者問題法律相談ガイドブック』を作りました。これまでも消費者問題の法律相談のガイドブックはありましたが、今回約10年ぶりの改訂で全改訂版として出しています。
内容もかなり分かりやすく分量もスマートになっていますし、今回、私が説明しました直近の改正についてもフォローされていますので、ぜひとも皆さんにお求めいただき、今後の業務の参考にしていただければと思います。以上をもちまして私の講演は終わりにさせていただきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。