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類型別:委員長経験者に聞く! なかなか聞けない業務妨害を受けない ための事件処理の手法(後編)

類型別:委員長経験者に聞く!なかなか聞けない業務妨害を受けないための事件処理の手法(前編)

大森 啓子(56期) ●Keiko Omori
当会会員
家事法制に関する委員会
委員長

ダニエル(藤田 充宏)(53期) ●Daniel Mitsuhiro Fujita
当会会員
刑事弁護委員会
委員長

2 離婚事件における業務妨害の予防と対策

家事法制に関する委員会の委員長を務めている大森と申します。私からは「離婚事件における業務妨害の予防と対策」ということで話をさせていただきます。
家事法制に関する委員会は、2019年度、新たに二弁で設置された委員会で、家事関係に関する法制度や運用等について検討や情報共有、家庭裁判所等との協議などの活動をしております。私は委員長を務めているほか、日弁連では家事法制委員会の事務局長をしています。また、裁判所の関係では、以前、4年間家事調停官をして、今は家事調停委員をしておりますので、裁判所の情報も含めて話ができればと思います。

1 離婚事件の特徴

まず離婚事件の特徴ですが、男性も女性も負の感情を強く持っていて、相手に対する積もり積もった感情や主張等がぶつかり合う事件類型ですから、気を遣う場面が少なくありません。特にDV 事件や子をめぐる事件では、子どもや配偶者に対する執着心があるなど、非常に高葛藤な事案が少なくありません。
その結果、依頼者である当事者が相手方当事者からの攻撃を受ける場合もありますし、代理人である弁護士に向けられる場合もあります。
例えば、平成22年6月には、横浜で男性の弁護士が刺殺されました。この弁護士は当時42歳、

登録3年未満の若手の先生でした。離婚訴訟の相手方当事者による犯行です。 また同じ年の11月には、秋田でも男性弁護士が刺し殺されるという事件がありました。この弁護士は当時55歳のベテランの先生で、会務も非常に熱心にされておられたそうです。やはり離婚事件の相手方当事者による犯行ですが、拳銃などを持って自宅に侵入され、殺害されたという事件です。
このほか平成19年9月にも、大阪で弁護士事務所の事務員がハンマーで殴られて殺害された事件がありました。これは厳密には離婚事件ではなく親族間の紛争で、その事務所の弁護士が財産管理を行っていた方の息子さんが事務所に押し掛けてきて、お金を持って行方をくらませている母親の居場所を教えろと言って、事務員を襲ったという事件です。
一番記憶に新しいところでは平成31年3月、夫が、東京家裁の玄関で待ち伏せして、離婚調停に来た妻を刺し殺したという事件が起こっています。離婚事件は、こうした極端なところまでいくこ ともあり得る類型ではないかと思います。

2 相手方当事者からの業務妨害

まず、相手方当事者から弁護士が業務妨害を受けるというパターンがあります。
家庭の中でDVという形で自分より立場が弱い者に対して向けていた攻撃性を家庭外にも向ける場合や、今まで言うことを聞いていたはずの妻等が歯向かってきたのは弁護士のせいだと思い込んで、弁護士を攻撃対象にしてくる場合があります。アルコール依存や精神疾患を有していて、正常な判断力が乏しくなっている場合もありますし、何とか自分の手元に戻させたいという執着から攻撃性を示す場合もあります。

1. 代理人に対する業務妨害への予防と対応

(1)予防

そうした当事者からの業務妨害について、まず予防の観点からは、感情を逆なでしないように心掛けることが必要です。冷静かつ丁寧に対応し、話し方や言葉使いにも気を付けていただいた方が良いと思います。また、あくまでも自分は対立当事者の代理人だという立場は明らかにしつつ、できる限り相手方当事者に共感的に応対することが必要な場合もあります。例えば、代理人を付けていない相手方から法律相談的なことを向けられた場合、相談に応じることは立場的に難しいことを説明しつつも、「法テラスがありますよ。」などと情報提供することもあり得ます。
また、業務妨害をする方は揚げ足を取ってくることも少なくありません。それがずっと続かないようにするためにも、こちらが何か間違った対応をしてしまった場合は、状況にもよりますが、そのことについてはきちんと謝って線引きをすることも、頭に入れておいていただくと良いと思います。他方で、例えば「すぐ電話をしろ。」とか「メー ルに返事をしろ。」といった受け入れられない要 求に対しては、「依頼者ではないからできない。」ということも説明しながら毅然と対応することも必要です。
また、電話が掛かってくる場合には、録音をしておくという対応があります。中には事務員に長々と攻撃をしてくるケースもありますが、事務員に被害が生じないように、「弁護士からは対応するなと言われておりますので。」ということを言えるよう、前もって事務員と意思疎通を図っておく必要があります。「今からそっちへ行く。」とか、脅迫的なことを言ってくるような場合もありますが、その場合には警察に通報して、警察から注意してもらうという対応もあります。
また、メールでのやりとりを許してしまうと、夜中だろうが休日だろうが関係なく連絡されることがありますので、事案や相手にもよりますが、メールアドレスは極力相手方には知らせない工夫も必要かと思います。
防犯対策も重要です。オートロックやインターホン、防犯カメラなどを設置して、危ない人は事務所内に立ち入らせないような対処を講じていただくこと、また、できる限り玄関以外の退路を確保しておくことを心掛けていただければと思います。事務員には、もしそういう人が来たら、すべてを置いてまずは逃げることを共通認識にしておくことも必要かと思います。
相手方当事者と面談をしなければならない場合、特に1人事務所の場合は弁護士会館の面談室を使う、ある程度人数のいる共同事務所の場合は、必ず複数人がいる時間帯に設定をするといった工夫や、何かあったときには緊急で助けが求められる非常ボタン、警備会社のボタンをつけるといった工夫をしていただくと良いのかなと思います。ある弁護士は警備会社と同時に110番通報をするようにと事務員に周知し、実際に相手方当事者が押しかけてきた場合には、「入れることができま せん。」という定型文言で対応させた上で、警備 会社と110番通報を同時にすると話していました。

(2)対応

対応としては、脅迫文言があった場合など何かあったときにはすぐ警察に連絡し対処してもらうといった、警察との連携があります。度が過ぎる場合には、被害届あるいは刑事告訴をするという対応も考えられます。
また、裁判所との連携もあります。調停や訴訟の期日があるときに待ち伏せして危害を加えるおそれがある当事者には、あらかじめ裁判所にその旨を告げて、警備を依頼することも可能です。

2. 依頼者に対する危害等への予防と対応(特にDV被害者等の場合)

次に、依頼者に対して危害を加える場合があります。特にDV被害者等の場合です。法テラス利用の事案も少なくありませんが、社会的な地位があって収入もあるような当事者が攻撃の刃を向けてくる場合もあります。

(1) 配偶者暴力相談支援センター、 警察署等との連携

配偶者暴力相談支援センターは、シェルターや母子寮を案内したり、あるいは経済的な面も含めて被害者が安全に日常生活を送れるよう、行政ないし福祉サービスを受けられるようにしたりするところです。
警察署等との連携については、警察署から住民基本台帳事務における支援申出書を交付してもらうことがあります。DVがあり、避難した後の住所を知られたくない場合に、住民票や戸籍について、DV加害者には開示しない措置を自治体に講じてもらうことができます。その手続を行う際、警察署から支援申出書を交付してもらい、区役所等に提出することになります。 また、DV加害者が警察に捜索願を出す場合がありますので、捜索願不受理届を出したり、既に捜索願が出された警察署と連携を取ったりすることもありますし、被害届や刑事告訴等の相談をするということもあります。

(2) 保護命令、ストーカー規制法による対応

保護命令は、身体的暴力を受けた人が、更なる 身体的暴力によって生命等についての危険のおそれがある場合に、裁判所に申立てて、接近禁止命令などを出してもらうものです。また、ストーカー規制法は、つきまとい等がある場合に警察から警告などの措置をしてもらうものです。そうした制度があることを頭の片隅に入れていただいて、何か具体的な相談があった場合には調べて対応していただければと思います。

(3) 調停等の手続における対応
ア 書面等の注意

DV加害者等の下から逃げてきた当事者が更なる被害を受けないための予防をすることは非常に重要です。
そのためには、まず、依頼者の居住地の情報であるとか、就学先、就労先の情報について、相手方当事者がどこまで知っていて、どこからは知らないのかという情報の峻別をして管理していただくことが重要です。
その上で、特に住所は漏洩すると非常に危険ですので、細心の注意を払っていただく必要があります。調停等の申立てをするときに、申立書の記載や、あるいは委任状から漏れる場合があります。申立書に実家の住所や従前の住所を書いて提出しても、依頼を受けたときの委任状にうっかり今住んでいる住所を書いて提出してしまうケースも見られます。提出書類を全てチェックして、現在の住所が載っていないかということについては細心の注意を払っていただきたいと思います。
相手方に開示してほしくない情報を特定した上で、非開示希望申出書を出すと、裁判所も気を遣って管理はしてくれますが、絶対というわけではありません。ですので、そもそも裁判所には漏れて困るようなものは出さないよう気を付けていただきたいと思います。
住所以外にもマイナンバーや就学先、就労先が推察される部分には、必ずマスキングをした上で非開示希望申出書を出す必要があります。例えば、源泉徴収票に就労先が記載されている場合がありますし、学校の通知書には学校名が記載されていますので注意が必要です。意外と盲点なのが、離婚する場合の年金分割の情報通知書です。年金事務所から入手して出しますが、郵送のため現住所が載っている場合が多いですので注意していただきたいと思います。
ちなみに令和2年2月13日、福井家裁の支部で マイナンバーが流出したという報道がありました。報道では、マイナンバーが記載された税関係書類を当事者が裁判所に提出して、それを相手方が閲覧、謄写をしたという形で流出したということです。裁判所の方でも注意する必要がありますが、そもそも提出する段階で代理人として注意する必要があります。

イ 出頭する場合の注意

次に出頭する場合の注意点についてですが、先ほど申し上げたように、平成31年3月に相手方当事者が家裁の玄関で待ち伏せして殺害したという事件がありました。依頼者との待ち合わせ場所には注意していただきたいと思います。問題がない場合には、調停の待合室や家裁の1階ロビーで待ち合わせる場合が多いですが、待ち伏せ等のリスクがある場合は、ロビーやエレベーターで遭遇してしまう危険があります。そういう場合には、分かりやすい場所での待ち合わせは避けるほか、事前に裁判所に事情を伝えて別のルートを使わせてもらうこともあります。 当然ながら控室が同じロビーですと鉢合わせすることがありますので、前もって進行照会回答書などにより別時・別階、つまり来てもらう時間をずらしてもらったり、待合室のフロアを別にしてもらったりするということを、裁判所にリクエストしていただければと思います。 また、証人尋問や審問で、当事者が法廷で話をしなければいけないという場合は、遮蔽やビデオリンク等の措置を求めることも検討が必要です。
帰り方にも注意が必要です。DV加害者を調停室の中にとどめている間に先に帰らせてもらうといったことも大切ですが、中には探偵や親族や友人などの協力を得て待ち伏せを仕掛けてくることも意外とあります。追跡される、待ち伏せをされているということも想定した上で、打ち合わせしていただくことが必要だと思います。
また、控室に友人や探偵を当事者のふりをして紛れ込ませて会話の内容を聞き取り、それで居場所を探り当てたというケースもあります。控室での会話にも気を付けていただいた方が良いと思います。

3 依頼者への対応

最後に依頼者への対応ですが、実は依頼者が攻撃を仕掛けてくるという場合も、この事件類型の場合には少なくありません。心理的に非常に不安定になっているということもあって、加害者とされる側、被害者とされる側双方に、そのおそれがあったりしますので、留意していただく必要があります。特に被害者とされる方は、うつやPTSD などになっていることがあります。不用意な一言で2次被害を与えてしまう場合もありますし、それが攻撃のきっかけになってしまうこともありますので、十分気を付けていただく必要があると思います。

3 刑事事件における業務妨害の予防と対策

ダニエルと申します。私は2017年度から2年間、刑事弁護委員会の委員長をしておりました。また、2014年から2017年にかけて、司法研修所 で刑事弁護教官(67期から70期)をしていました。私自身の経験だけではなく、知人などから相談 を受けたことも加味して、私なりの個人的な考えをご紹介させていただければと思っています。私がお話しすることが唯一の答えということではありませんので、あくまで1つの意見として参考にしていただければと思っております。

1 刑事事件における業務妨害の特徴

刑事事件における業務妨害の特徴ですが、誰による業務妨害かという観点で見たときに、①相手方の場合、②依頼者の場合、あるいは③相手方・依頼者以外の第三者の場合と3パターン考えられますが、刑事事件における業務妨害は、②依頼者による場合が圧倒的に多いということが挙げられます。①相手方による業務妨害というものもないわけではないのですけれども、ほとんど全てが自分の依頼者たる被疑者・被告人による業務妨害だと思っていただいていいと思います。それが大きな特徴だと思います。
なお、③第三者による業務妨害、例えば世間の耳目を集めた重大事件の弁護人を引き受けたことによって、マスコミから叩かれたりとか、一般の方から膨大な数の懲戒請求を受けたりなどというようなケースもあるかもしれません。ただ、③第三者による業務妨害は非常に珍しいと思いますので、そちらはいわば応用編・上級編ということで、今回は省略させていただきます。
もう1つの特徴としましては、刑事事件は、民事事件に比べて、業務妨害が起こりやすい類型であるということが挙げられます。
業務妨害というのは、もともとは弁護士に対する不満から始まり、その不満が積もり積もって、あるとき一線を越えて業務妨害にまで発展してしまうというものです。刑事事件の依頼者は必然的に被疑者・被告人の立場にあり、あくまで一般の依頼者と比べてですが、その一線を越えて弁護士に対して業務妨害のような行為に及んでしまう人の割合が高いというところが、この類型の特徴かなというふうにも思っております。

2 刑事事件における業務妨害の原因

1. 国選弁護という制度

刑事事件における業務妨害の原因としては、国選弁護という制度、これ自体も実は原因の1つです。本来、依頼者が弁護士に不満を持った場合、嫌だったら辞めてもらえばいいわけで、解任すればいい。けれども、国選事件の場合には、被疑者・被告人がこの弁護士は嫌だ、この弁護人を替えてくれと言っても、裁判所はそうそう簡単には解任してくれません。
また、弁護人から見ても同じで、この被疑者・被告人の弁護はできないと思った場合、私選であれば辞任するという自由があるわけですけれども、国選事件の場合には辞任ができません。裁判所に解任を求めるしかない。そして、裁判所はよほどのことがないと解任はしません。そのため、信頼関係が失われたにもかかわらず依頼関係が続いてしまいます。その中で、一方又は双方の不満がどんどんたまって、それが爆発して業務妨害が起こりかねないわけです。そういうことが、そもそも国選弁護という制度に内在してしまっているものと考えます。

2. 接見室という環境

それともう1つ、接見室という環境、これ自体も原因かなと思っています。弁護人には刑事訴訟法上、秘密交通権が保障されているのですが、それは本来、被疑者・被告人の権利・利益を守るために保障されているものです。また、弁護人にとっても有効な弁護活動をするために、本来保障されているものではあるのですけれども、ただそこが業務妨害の温床にもなりかねない危険をはらんでいるのです。
接見室は、密室の中、被疑者・被告人と弁護人2人だけ、つまり、業務妨害者と妨害を受ける者の2人だけが密室で話をしているわけなので、脅迫などの妨害を行おうと思えば、非常に行いやすい環境といえます。アクリル板がありますので、暴行を受けることはあまりありませんけれども、言葉による攻撃は、やろうと思えば簡単にできてしまいます。

3. 誠実義務に対する無理解

3つ目としては、誠実義務に対する無理解が挙げられます。刑事弁護人に課せられた義務として、誠実義務というものがあります。それを誤解していたり、理解が不十分であったり、そもそも全く理解していない、その結果、業務妨害につながっている。これも原因として考えられると思っています。
誠実義務とは、弁護士法・弁護士職務基本規程を根拠としている刑事弁護人の義務でして、簡単に言うと、被疑者・被告人の利益のために誠実に弁護活動を行うべき義務です。司法研修所でも頻繁に耳にしたことがあるであろう、非常に重要な義務です。具体的には、例えば、被疑者・被告人が「私は無罪です。」と言っているにもかかわらず、有罪弁論をしてはだめですよと、皆さんもそういうことはご存じだと思います。また、被疑者・被告人の言い分と矛盾する主張を弁論で主張してしまうと、それも誠実義務違反になります。とにかく、被疑者・被告人の言い分に沿って弁護しなければならない、それが誠実義務ということになるわけです。それはそのとおりで、間違いないことです。
ただ、問題は、研修所の白表紙に載っている起案と実務とが違うというところです。研修所での白表紙は記録ですから、そこに書かれている被疑者・被告人の言い分は絶対に変わりません。説得して変えさせるということは、あり得ないわけですね。しかし、実務では、被疑者・被告人の言い分が最初から最後まで一切変わらないということは逆にあり得ませんので、弁護人としてはあらゆる状況、被疑者・被告人から聞き取った話だとか証拠関係を見て適宜アドバイスをして、証拠を踏まえて議論をする。場合によっては、被疑者・被告人を説得するというプロセスも、当然、出てきます。
そういったプロセスを踏んだ上で、最終的に被疑者・被告人の意見が決まった、あるいはいくら説得しても変わらなかったという場合には、被疑者・被告人の言い分どおりの弁護をするというのが誠実義務なわけなのです。最終的には被疑者・被告人の言うとおりに弁護するとしても、そこに至る過程では、当然議論があって、弁護人は法律専門家としての意見を言わなくてはいけないわけですよね。議論し、説得を試み、その上での誠実義務なので、そこは間違えないでいただきたいところです。議論する、説得するというプロセスを飛ばして、最初から言いなりになってしまう、被疑者・被告人の言い分どおりにやればいいんだというように誠実義務をはき違えてしまうとよくないわけですね。
そもそも、誠実義務というのは刑事手続におけるものですから、刑事手続において、被疑者・被告人の権利・利益を守るために言い分どおりにやらなくてはいけない義務なわけです。なので、例えば、刑事手続の外で、何か買ってきてくれだとか、ペットに餌をやってくれだとかいうことについてまで従わなければいけない義務では全くありません。

3 刑事事件における業務妨害の予防と対策

1. 文句を言わせない仕事をする

誠実義務を正しく理解して、どの範囲で被疑者・被告人の言い分を守らなくてはいけないのか、どこは守らなくていいのかというところをきちっと切り分ければ、業務妨害的な攻撃は、うまくかわせるのかなというふうに思っています。刑事弁護において業務妨害を避けるためには、誠実義務をちゃんと理解して、やるべきこととやらなくていいことをちゃんと切り分けるということに尽きます。
当たり前のことを当たり前にやればいいというだけのことなんですね。例えば、きちんと接見する、記録を読んで、ケースセオリーを考えて、被疑者・被告人にアドバイスをする、証拠を見て議論する。何が一番いいことかを一緒に考えて、言い分がおかしかったら正すとか、接見して、場合によっては矛盾点を指摘して言い分を変えさせるとか、法廷で通用しない言い分があったら、それはおかしいでしょうという話をする。そういった当たり前のことをきちんとやる、それが一番だと思います。それは弁護人として責任を負っている部分なので、責任をもってやらなければいけないところなんですね。
他方、それ以外のこと、差し入れをどうとか、毎日接見に来てくれと言われるだとか、これらは、言われたとおりにやるということが誠実義務につながるものではないので、そこはやらないというふうに割り切るのが一番いいと思います。
中には言われたことをとにかく何でもやってあげるという主義の人もいます。もちろんそれが義務ではないと分かった上で、サービスとして行うのであれば全然問題ないと思います。けれども、それを義務としてやらなくてはいけないと思ってやっているのはよくないと思います。 やらされていると思うのか、サービスとしてやっていると思うのか、そこで受け取り方も違います。そういった弁護士の姿を見て、業務妨害者は攻撃できる相手かどうかも見極めたりします。ですから、正しく線引きして、やることはやる、やらないことはやらないというのが大事かなというふうに思います。

2. 付け入る隙を与えない

2つ目、これも誠実義務と絡んでくるところではあるんですけれども、つまらないミスをしないとか、あるいは、余計な約束をして弁護人が被疑者・被告人に対して負い目を持たないということです。相手に付け入る隙を与えてしまうと、そこから彼らは優位に立とうとして、業務妨害につながっていきます。
こちらに落ち度があったりとか、ちょっと申し訳ないなと思う気持ちがあったりしたときに相手から付け込まれたりすると、気持ちがへこんだりしますよね。こういう業務妨害者化する人は、そこを見逃しません。徹底的に突いてきますので、そういった隙をつくらないということが大事だと思います。
例えば、毎日必ず接見に行くよと約束してしまったけれども、行けなかったという場合もあります。多くの場合は、「ああ、ごめん、ごめん、ちょっ と昨日、こういうことがあって行けなかったんだよ。」で済むのだけれども、業務妨害者はそこを 見逃しません。そこを執拗に責めてきます。だから、そうなるくらいであれば約束はしない、接見はこっちの都合で行くんだから、と割り切るということが大事です。

3. 証拠を残す

3つ目は、誠実義務とは毛色が変わってきますけれども、証拠を残すということです。例えば、手紙ががんがん来るだとか、あるいは手紙で脅迫されるというのは、手紙自体が証拠なので全然問題なくて、そのまま証拠として残るからいいんですけれども、問題なのは接見室での脅迫です。これは書面による証拠が残りませんので、意識して証拠化する必要があります。端的に言うと、接見室でのやりとりをICレコーダーで録音しておくということです。
この点、単なるメモとして残すということではなくて、場合によっては人に聞かせるとか、そういうことがあるかもしれないという前提での録音になるので、秘密交通権との関係で問題ないのかという疑問を持たれる方もいるかもしれません。私も以前、まさしくそういう疑問を持っていたんですけれども、ある事件で知人と2人で受任した事件において、いろいろ脅迫されたことがありました。相弁護人と議論した結果、録音は問題ないだろうと、場合によってはそれを人に聞かせることも問題ないだろうと判断しました。なぜなら、秘密交通権がどうして秘密でなければいけないのかというと、被疑者・被告人の権利・利益のためです。けれども、今、ここで話している録音は我々が脅迫されていることの証拠を残すためのものなので、刑事手続における被疑者・被告人の権利・利益を守ることとは関係ないものです。秘密交通権の要請が、我々の保護法益を消滅させるということはあり得ませんので、現に脅迫されている以上、それを証拠化して残すことは全然問題ないと考えますし、場合によっては捜査機関に持ち込むということも(実際、私たちはそこまではやりませんでしたが)、やっても問題なかっただろうと思っています。ですので、実際使うかどうかは別として、万が一のときのために録音して証拠化しておくということも非常に大事だと思います。

4. 最後に

とにかく刑事事件は業務妨害が起こりやすい危険な類型です。ですので、やりたくない人はやらないでくださいということを強くお伝えしたいです。やりたい人だけやってください。そして、やるのであれば、誠実義務を正しく理解して、何をやらなければならないのか、何をやらなくていいのか、それをきちんと理解して切り分ければ、ドツボにはまることはそれほどないのかなと思っております。それでもなお困ったら、遠慮なく弁護士業務妨害対策委員会だとか、刑事弁護委員会へご相談いただければと思っております。
では、私の話はここまでにしたいと思います。どうもありがとうございました。