インタビュー

福原あゆみ弁護士

略歴(掲載時)
2007年  検事任官後、東京地方検察庁検事、法務省刑事局付などを歴任
2013年  弁護士登録し、都内法律事務所に入所
2016年〜 長島・大野・常松法律事務所
2022年〜 経済産業省「蓄電池のサステナビリティに関する研究会」委員、
経済産業省「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会」委員など

著書「基礎からわかる『ビジネスと人権』の法務」(単著)など多数


世界水準で切り拓く、ビジネスにおける人権擁護の挑戦

編集部

今日はお忙しい中、どうもありがとうございます。自己紹介からお願いします。

福原

長島・大野・常松法律事務所のパートナーをしております、弁護士の福原あゆみと申します。期は60期です。

福原あゆみ先生
編集部

今日は「弁護士の魅力」ということで、福原先生のお仕事のこととか、それを志すきっかけとか、そういったことを伝えてもらいたいと考えています。まず、司法試験受験を考えたきっかけから、お願いできますか。

福原

(弁護士の仕事が)漠然と人の役に立つとか、社会の役に立つというイメージはあったんです。ただ、大学に合格した後、何か資格があった方がいいかなと思っていたところ、大学合格の報告に行った高校の先生から、せっかく資格を取るなら一番難しい試験がいいんじゃないかとアドバイスいただいたこともあり、司法試験を目指したという感じです。

編集部

弁護士ってこういうものだなと漠然と思っていたようなことは、何かありますか。例えばドラマを見てとか。

福原

もともと身近に法曹関係の人もいなかったんですけれども、小説とかテレビとかを見て、困った人の弁護をするとか、そういう町弁のようなイメージは持っていました。

編集部

大学3年生の時に司法試験を合格されて、卒業後、司法修習を経て、検察官に。修習中はどうでしたか。

福原

司法修習は、いろいろな地域や年代の人と一緒に勉強していたので、その経験はものすごく刺激的でした。実務修習として、検察庁、裁判所、弁護士修習と、いろいろなところを回って。その中でも検察庁での修習は、自分で取り調べをしたりして、事件を担当させてもらえたことが、すごくチャレンジングでした。また、被害者保護など検察庁の目指している理念にも共感したので、最初のキャリアとして検事になることを選びました。

編集部

修習後、実際に検事として仕事を始めてみてどうでしたか。

福原

検察庁の理念とか考え方みたいなところは、修習生のときに考えていたことと、それほど変わらなかったですし、皆さん、被害者保護などのために刑事事件を立件するということについて一丸となって頑張っていて、そこはすごくやりがいがある仕事だなと思いました。実際にいろいろな経験もさせていただきました。ただ、被害者など当事者の方が、必ずしも刑事事件の枠内での解決を望む場合だけではなかったりするので、そういったところには、やっぱり歯がゆさがありました。また、検事として働く中でも、修習のときのクラスメートだったり、同期の弁護士の人たちと話していたりすると、弁護士の仕事の幅広さ、実際に仕事として会う人の幅もそうですし、案件だったり解決の幅というところもそうですし、そういうところに広がりがある弁護士の仕事に、すごく魅力を感じました。もしキャリアを変えるのであれば、あまり時間がたってしまうと、一から弁護士の仕事を始めるというのもなかなか体力的にも厳しいところがあるのかなと思って、6年目で検事から弁護士になることにしました。

編集部

弁護士にキャリアを転換して、どんなことを感じましたか。

福原

全く弁護士の経験がなく、最初の法律事務所に入って、M&Aとか訴訟とか不動産とか、ジュニアのアソシエイトとしていろいろと一通りさせていただいたのですが、すごく仕事の幅が広いのもあって、何をやっても初めてみたいな感じでした。その時点で、司法試験に合格してから、民事系の法律をまったく触らないまま数年間たっていたので、思い出したり、知識を得ていく部分の難しさというのは感じましたね。あとはサービス業でもあるので、そういう意味でも公務員として、当事者の方や、警察などと接するのとは違う感じもありました。そういったところに慣れるまでには少し時間がかかったかなと思います。

編集部

弁護士に登録して最初の頃で、何か印象に残っている案件とか、これは大変だったなとかありますか。

福原

弁護士になった最初のころというのは、私が今、プラクティスとしてやっている危機管理とか不正調査というのが、まだそんなに分野としては確立していなかったんですけれども、そのはしりみたいな感じで、ある会社の中で品質やカルテルの問題があったときに、事実調査をしたりとか、ヒアリングをして、報告書を書いたりということをやりました。そのときにヒアリングで事実を聞き出す過程などを依頼者の方がすごく評価してくださったりして、そこで検察官とのつながりを感じられたというか、こういう形で役に立てる部分もあるんだなと思ったのが印象的です。

編集部

ご経歴を拝見すると、最初の法律事務所からいくつか移籍をされています。

編集部

最初、外資系の事務所でいろいろさせていただいたんですけど、そもそも日本の民事系の法律の知識・経験が不足しているとも感じ、もう少し日本法に特化したというか、企業法務でいろいろやって、専門性を身に付けた方がいいんじゃないかと思って、そういった日系の企業法務の法律事務所に移りました。そこで2年ほどアソシエイトをさせていただいた頃に、ちょうど危機管理というか、弁護士の不正調査だったり、そういうプラクティスが徐々に確立されてきて、そういう案件を自分でも多くやるようになっていきました。ただ、大きな不祥事・不正調査になると弁護士の人数も必要ですし、大手の法律事務所に移って専門性を付けていた方がいいのかなと思って、今の法律事務所に移ったという感じです。

編集部

少し話がそれますが、男女問わず、色々なライフステージというのがありますが、この業界って、そのあたりの配慮やサポートが残念ながらまだまだな部分があると思います。今の事務所については、そういった部分はいかがでしょうか。

福原

弊所では、まだ改革途上の部分もあるんですけれども、すごく制度が充実しています。そういうライフステージの変化に伴って、男女問わずサポートが必要になってくるので、産休、育休制度があるだけでなく、内容や運用についても随時、見直したりして、その結果、男性の育休とかも増えてきたりしています。あと、これも男女問わずですけれども、例えばアソシエイトがプライベートだったり、自身のキャリアも含めて、相談できるようなメンター制度を導入したりとか、そういう活動をいろいろしていますね。

編集部

次に、今のお仕事の内容をお聞きします。さっきも少し出た危機管理の部分なんかも含めて、どういったお仕事をなさっているんですか。

福原

まず、今の法律事務所では、危機管理/リスクマネジメント/コンプライアンス分野でのパートナーをやっています。危機管理なので、いわゆる企業の危機にあたる場面、例えば不祥事だったり、重大な事故やインシデントがあったときに、事実調査をしたりとか、あとは企業が不祥事を当局に報告するかどうかの検討だったり、報告する際のサポートであったり、あとはメディアに対して公表する、あるいは記者会見をするときのサポートだったり、そういうことをさせていただいています。
また、そういった不祥事が起こらないように予防法務として、不祥事や不正を防ぐために、どういうコンプライアンス体制を構築していくかというサポートをしています。
さらに、コンプライアンスの中でも最近はよくビジネスと人権に関する分野を取り扱っています。いろいろな人権問題がありますけれども、企業が人権を尊重するため、外国人の権利だったり、労働環境だったり、そういったところについて、どういう形で企業がそのリスクを軽減していけばいいかということについて、アドバイスをさせていただいています。
あとは、事務所のパートナーの業務として、弊所でも公益活動、いわゆるプロボノを積極的にやっていきましょうということで、そういった活動を推進しています。プロボノ委員会というのがあって、私を含め、何人かのパートナーが委員会に入っていて、事務所としてのプロボノを推進する活動をやっています。私自身はプロボノとして、難民支援、具体的には日本での難民申請を希望する方の代理人としてのサポート活動をするということなどをやっています。

福原あゆみ先生

編集部

まず、お仕事の内容の一番最初にあった危機管理的なことですが、これは事前のアドバイスにとどまらず、実際に何か起こったときの対応をしたりとかありますか。例えば、訴訟なんかはあるんですか。

福原

例えば、品質不正というか、企業が出荷していた製品に問題があったけど、それを隠していたという場合に、日本国内でも景表法や不競法とかで問題になるとは思うんですけれども、アメリカでのクラスアクションだったり、海外で訴訟になるということもすごく増えています。カルテルがあったとしても、例えば欧州だと、そこに民事訴訟のリスクというのが常についてきたりするので、そういうところで訴訟を扱ったりすることはあります。

編集部

じゃあ、海外の弁護士と連絡を取り合って対応したりも。。

福原

そうですね。

編集部

実際、海外出張とかに行ったりしますか。

福原

そうですね。コロナ後はリモートでの会議というのが増えてきましたけれども、たまに海外出張をすることもあります。

編集部

ちなみに海外出張だと、どの辺に行くことが多いんですか。

福原

海外出張はアメリカがやっぱり多いですかね。アソシエイトのころには調査のために東南アジアに行ったりしたこともありましたね。

編集部

現地調査で何かが分かることってありますか。

福原

例えば不正調査のヒアリングについては、リモートでもできるんじゃないかという議論があるにはあります。でも、現地に行くと、例えば地方の工場で、地域にはその工場しか働くような場所がない場合、従業員の人って、そこで不正を認識したとしても内部通報をしたり、不正を申告してクビになったりしたら、もう行くところがなくなって生活できないわけですよね。そういう不正を生んでしまう環境的なものも、現地に行くとよく分かるところもあって。例えば上司との席の近さだったりとか、実際に不正していた現場がちょっと目の届かない離れたところにあったりとか、そういう空気感も分かったりするので、現地に行って分かることというのは結構あります。ただ、コロナもあって、リモート会議も発達してきて、費用の関係もあるので、リモートにするか、対面にするかという判断が必要なところではありますね。

編集部

次にお仕事の内容の二番目のビジネスと人権ですが、最近、『ビジネスと人権』に関する著書を出版されました。『ビジネスと人権』のテーマにかかわるきっかけは何かあったんですか。

福原

もともとアソシエイトのころに、一度、日本企業の海外子会社の工場で、人権侵害の申し立てがなされたという紛争があって、その案件を企業の代理人として担当させていただきました。そのときに初めて海外で今、こういう動きになっていることを知って、国際規範の流れをあらためて勉強したりする機会がありました。その後すぐにビジネスと人権の活動を本格的にし始めたわけではないんですけれども、そこから少し時間がたって、海外の法制化だったり、そういうことを契機として、ビジネスの人権との議論が盛り上がってきたときに、そういった案件の経験を生かしていろいろ発信したりとか、徐々に案件が事務所にも来るようになったので、そういうものを受けるようになってという流れです。

編集部

この本を書こうと思ったきっかけは何かありますか。

福原

これはもともと「ビジネスと人権」のニュースレターを出させていただいたときに、出版社の中央経済社の方がニュースレターをご覧になって、この分野で本を書いてみませんかというお話があって、ご依頼いただきました。

編集部

書かれてからしばらく経ちますが、出版された本を手にしたときはどうでしたか。

福原

共著では出させていただいたりしたこともあったのですが、単著で自分の成果物が世に出るというのはすごくうれしかったです。親が本屋さんに見に行ってくれたりしたり(笑)。

編集部

親孝行ができたと(笑)。

編集部

ビジネスと人権の関係で、海外の企業とか、そこの代理人なんかと連絡を取ったりする機会もあるんですか。

福原

はい。条文上の解釈とか、やっぱり実務的なところは現地のカウンセルに聞いた方がいいことも多いですし、例えばアメリカの弁護士とかドイツの弁護士とか、いろいろやりとりする機会というのは多いですね。

編集部

やりとりをする中で、例えば人権についての感覚の違いとかありますか。企業も含めて。

福原

もともと欧州の企業などは特にベースがあるというか、取り組みが進んでいますし、サステナブルなものに対する消費者行動というのもあるので、スタンダードが高くなっていたりします。開示の部分でも欧州企業の方がやっぱり進んでいて。そういう意味では日本企業は一般的にはわりと100%に取り組みが達してから開示する傾向があるので、その途中の段階で開示するプラクティスって、今までやってこなかった企業も多いと思うんです。なので、人権の取り組みを本当はやっているんだけれども、なかなか開示できてないということも多いのかなと思っていて。そのへんが今埋めていかなければいけない課題だと思っています。

編集部

そこを埋めていかないと、どんどん世界の経済の中から取り残されていくと。

福原

結局、開示できてないと、投資家など第三者から見ると、取り組みがまったくゼロということと同じことに見えてしまいます。一方で、虚偽開示のリスクというか、実際の取り組みと乖離したことを開示してしまった場合のリスクというのも増えてきているので、そこは注意が必要なんですが、どういうリスクがあって、今後どういうふうに取り組んでいくかというところも含めて開示していかないと、今後のグローバルの流れにはなかなか追い付けないのかなと思いますね。

編集部

お仕事の内容の最後にあったプロボノの部分。それ以外のお仕事だけでも、ものすごくお忙しいと思うんですが、それでもなおプロボノ活動を事務所としてもやっていくというのは何か理由があるんですか。

福原

企業法務の事務所ではありますけれども、事務所としてもそういった社会貢献をしていった方がいいよねというような価値観がまずあります。特に難民支援というのは、日本では難民認定がなかなか認められづらいというところがあるので、少しでもそういうものを変えていけるといいんじゃないかということで、事務所としてやっています。

編集部

難民支援というと、具体的には認定のサポートとかですか。

福原

そうですね。具体的に難民申請を希望される方のために、難民として認められる法律上の要件というのがあるので、そこの要件を満たしているということを弁護士として主張する意見書を作ったり、その本人がこういう状況で難民申請を希望するとして陳述書を出したりするんですけれども、その陳述書作成のサポートだったりとか、そういうことをしています。

編集部

難民支援の活動って、普段の業務とどういう部分で違いを感じますか。

福原

難民支援の活動は、企業法務とは違って、ビジネスの世界というよりは、もう少し人の人生に立ち入ることになります。迫害されてきた経緯だったり、かなりセンシティブな話をお伺いしないといけないところがあるので、その部分の難しさだったり、配慮というのは必要になってきます。そこの違いというのは大きいと思います。

編集部

活動の中で最近印象に残っている部分はありますか。

福原

私が代理をさせていただいた難民を希望される方が、申請してからかなり何年も経っていたんですが、昨年、難民として認められて、すごく喜んでくださって。それはすごくうれしかったですね。

編集部

お仕事の内容を聞かせていただいてきましたが、ご自身の仕事のどういったところにやりがいを見出していますか。

福原

まず危機管理とか不正調査についていうと、企業にとってのまさに危機の場面に立ち会うことになるので、かなりタイトなスケジュールで判断しないといけないという場面も多いですし、企業にとって、もしこの判断を誤ったら、もう存続が危ぶまれるかもしれないというような場面もあったりするので、その中で自分が判断しなければいけない、アドバイスしければいけないということはすごく緊張感があることが多いです。けれども、そこが最終的にうまく収束できたり、着地できた場合には、依頼者にもとても喜んでいただけます。危機管理の場合、うまく収束できるとメディアで大きく報じられるわけではない場合もありますけれども、それが一番の解決だったりするので、すごくやりがいはあるなと思っています。
あとはビジネスと人権の分野についていうと、まだかなり新しい分野ですし、海外で法制化されていても、日本でまだ法制化されてない面もあるので、前例だったり、判例や文献もあまりなかったりするときもあります。かなり幅広い選択肢があって、正解がよく分からない中で、どういう解決策がいいのかというのを考えるのはかなり難しいところでもあるんですけど、一方でそういう最先端の前例がない分野について、関わる機会があるというのはすごく実務家としてありがたいことだなと思います。少しでも社会を前進させるというサポートができているというのは、やりがいがあることだなと思っています。

編集部

危機管理の仕事で、かなりタイトだということでしたけど、どれくらいのものなんですか。

福原

例えば不正があって公表するかどうかとか、当局に自主申告するかどうかというのは、やっぱり一分一秒を争います。公表が遅れたら、それだけ、公表が遅いんじゃないかと言われるリスクもあったり、自主申告による制裁の軽減みたいなことが適用されなくなってしまうリスクもあります。本当に何時間とか、1日以内とかで何か決めないといけない場面もありますね。

編集部

結構スリリングですね。

福原

そうですね。間違っていたらどうしようというのはすごく思いますね。

編集部

そのときに、これでいいんだというふうにご自身で思うわけじゃないですか。自分の中でここまでやったら大丈夫だとか、何かそういうのはあるんですか。

福原

我々が提案する結論に行き着くまでに、アソシエイトに作業してもらう分も含めて、前例を調べたり、リサーチもして、チーム内でもかなり議論します。チーム内で議論した後に、さらにクライアントと結論に至るまでに多くの議論をしたり、メリット、デメリット、リスクを含めて、かなりの議論をして結論を出すので、結論に至るときには、やっぱりもうこれしかないんだというところで出せているかなと思います。弊所はわりとほかのパートナーにも相談しやすい環境ではあるので、案件に入ってないパートナーにも、いろいろ感覚を聞いたりとかして、ベストなものが出せるところはあると思いますね。

編集部

チーム体制でいうと、どういった形になっているんですか。

福原

危機管理、コンプライアンスを専門としているパートナーが何人かいて、アソシエイトも何十人かいる中で、案件ごとにチームを組んでいます。例えばある調査案件だと私がパートナーとして主任となって、アソシエートに何人か入ってもらって、1つのチームとしてやるという感じです。

編集部

そうすると、その案件のチームで福原先生だけがパートナーということになると、最後の決断はやらなければならないということになるわけですか。

福原

そうですね。シニアのアソシエイトだった時も、かなりの部分を任せていただけていたので、パートナーに最後の決断を委ねているという意識はなかったんですけど、ただ実際やっぱり自分がパートナーになってみると、そこの最終判断を負っているのは自分なんだというところのプレッシャーは結構大きいですね。

編集部

そういう案件をこなされているとストレスも感じると思いますが、ストレスを解消する方法があれば教えてください。

福原

リーガルドラマだったり、法律家が出てくるような小説を読んだりするのが好きですね。最近は元弁護士の新川帆立さんの小説とかエッセーが好きで、よく読んだりしています。

編集部

先ほどから、お話しいただいている危機管理やビジネスと人権の仕事だと、弁護士以外の方もアドバイスなどを手掛けていたりします。でも、弁護士であることの強みであったり、弁護士だからこれができるんですみたいなことって何かありますか。

福原

危機管理って結構、法律を使わないんじゃないかというイメージを持たれることもあって、コンサルタントの方とかも競合にもなり得ます。ただ結局、危機に対してどう動くべきかというのは、もちろんレピュテーションリスクだったりとか、法律を超えた部分もあるんですけれども、どうすべき、何はしてはいけないという、上限下限は法律で決められているので、そこは最低限、守らないといけないわけです。その中で何ができるかというところは、やっぱり弁護士が一番そこをよく知っているところだと思います。訴訟につながったりとかする場面では、もちろん弁護士でないとできないこともありますし。
あと、私は元検察官だったので刑事系の不正とか不祥事を扱うことも多いんですけど、そういう場面で、立件される可能性がどの程度あるかとか、どういう対策を採ればそういうリスクを防げるのかとか、そういう場面では、まさに弁護士としての付加価値、アドバイスが求められていると思います。

編集部

それから、例えば規制当局とのやりとりで、代理人として表に出ることができるのも、弁護士だからということもありますか。

福原

日本当局との間では、弁護士が代理人として付いていることが、主張の内容だけではなくて、きっちり代理人を付けて、ちゃんと対応しているんだというところでのプラスの印象を持っていただける場面というのもあります。また、海外当局との関係でも、やっぱり弁護士であるということは、それだけ信頼を与えるものではあるので、プラスになっていると思いますね。

編集部

福原先生にとって弁護士という仕事の魅力とは。

福原

今思いついただけなので、あんまりいい答えじゃないかもしれませんが、弁護士である自分にとっての自由と、依頼者、クライアントにとっての自由というのを両方達成できるというところが魅力でもあり、やりがいですかね。

編集部

弁護士として仕事をしていく上で、女性だから苦労したとか、逆にこれはやりやすかったとか、もしあれば教えていただきたいんですが。

福原

女性であることによって苦労したというのは、弁護士になってからはあまり感じたことがなくて。検察官のときには、シニア男性が被疑者だったりすると、なめられて取り調べが進まないみたいなことが、正直あったんですけれども、弁護士になってから応対してくださる人はみなさんプロとして扱ってくださるので、そういうことは感じてないですね。
逆に、女性としてよかったなと思うことは、例えばハラスメントの被害者とかだと同性でないと話したくない、異性だと抵抗があるという方もいらっしゃるので、そういう面ではよかったかなと。あと、これは正直、そういう社会でなくなることが理想だと思いますけれども、やっぱり女性が少ないということで、覚えていただきやすかったりとか、役職などジェンダーバランスを考えて女性を選んでいただけるというのはありがたいことでもありますが、今後の社会全体の改善点でもあるのかなとは思っています。

編集部

では、これから弁護士としてのキャリアを積んでいこうという方などに向けて、何かありますか。

福原

私自身も弁護士になって最初の1、2年というのは、何から何まで覚えることばかりで、すごく大変でしたし、一方で自分の今後のキャリアってどうなっていくんだろうというのが、やっぱり自由である分、先が見えなくて不安だという部分もありました。けれども、先ほど申し上げた通り、私にとっては、企業の紛争案件を扱ったことが、ビジネスと人権をやるきっかけになりました。その案件を扱った後、すぐにビジネスと人権を専門としてやり始めたわけではないんですけれども、いろいろな経過や法制化の流れがあったりする中で、それまで自分がやっていた危機管理とかコンプライアンスの分野と親和性があって、つながって、そこから専門としていったという。当時はただの点と点だったものが、後から線につながるということを、そのときに実感しました。なので、まずは目の前の仕事を頑張って、後に点と点が線につながるような瞬間があれば、それを大事にしていただきたいなとは思っています。
あとは、私も法律事務所にいる中で、キャリアの進め方などで悩むこともあって。ただ、なかなか同じ事務所にいる弁護士などには相談しづらかったりする内容もあったので、研修所のときのクラスメートだったり、同期に相談することもありました。そこで外からの目線だったり、意見、アドバイスをもらって、参考になったこともあるし、言語化して自分の中で解決できたところもあったので、そういう所外の人とのコミュニケーションだったり、接する機会というのはすごく大事だなと思いました。事務所にいる人にとって、例えば弁護士会の活動とかでも、そういった所外の人と知り合う機会あると思いますし、そこもやっぱり所外の接点としてすごく貴重な機会ではあると思うので、何かそういう場としても活用していただきつつ、自分のキャリアを見つけていっていただきたいなと思います。

編集部

これから進路を考える学生のような方に向けてはいかがですか?

福原

やっぱり弁護士って、すごく専門性を持っていけるという意味では、唯一無二の存在になることができますし、キャリア形成も自分で思ったようにできるところがあって。そこは自由業だからこそできることなんだと思いますけれども、自分のライフスタイルの変化にも合わせながら、法律事務所にいることもできますし、インハウスになることも、ほかのキャリアもあります。そういうことを自由に選択していける、主体的にキャリアをつくっていけるというのが、弁護士の一番の魅力だと思うので、ぜひ進路の1つとして考えてみていただけるとうれしいです。

福原あゆみ先生

編集部

最後に、福原先生の今後の目標とか、やりたいことは何かありますか。

福原

今後、自分自身がやりたいこととしては、ビジネスと人権の分野が日本でも大きくなってきていますし、幸い、弊所の例えば若手の弁護士とかも、この分野に興味を持ってくれている人もいるので、この分野が日本にもっと根付くことを目指していきたいです。このプラクティスをもっと大きくしていって、企業が、ひいては社会がよりよくなるように、少しでも助力できればと思っています。