インタビュー

若松大介先生

海外で活躍する弁護士

日本の法律事務所のロスオフィス所長として、アメリカ・ロサンゼルスを拠点に活躍されている若松弁護士にお話しを伺いました

中若松大介先生インタビュー【編集部】先生の経歴を教えてください。
【若松】60期で修習を終えた後、外資系法律事務所での勤務、商社への出向を経て、2013年にロサンゼルスに留学しました。その後も、そのままロスに拠点を置き、現在は、のぞみ総合法律事務所のロスオフィス所長として、主に日本の会社のアメリカでの事業や、新規進出・買収等のサポートをしています。

【編集部】ロスに拠点ですか...国際的で格好良いですね。元々学生の頃から、国際派弁護士を目指していたのですか。
【若松】いいえ、私は大学では経済学部に入ったので、弁護士は全然目指していませんでした。しかし、大学3年生になってもやりたい仕事のイメージを持てずにいたところ、司法試験の勉強をしていた友人に憲法の問題を見せてもらったら、条文や規範を事実に当てはめ結論に導いていくプロセスが数学の証明に似ていて面白いなと思い、司法試験の勉強を始めました。
学部では、企業経済学という企業活動を経済学の観点で考えるゼミを専攻していましたので、弁護士としてもビジネスに関わる仕事がしたいと漠然と思っていました。

【編集部】その後、外資系の事務所に入所されていますが、この頃から海外のお仕事がしたいと思っていたのですか。
【若松】いえ、18歳までほぼ九州から出たことがなく、外国人と目を合わせるのも怖いくらいでした。でも、ビジネス系の仕事をするならそうも言っていられないと考えていた中で、就職活動中にリンクレーターズの先生方とお会いし、この先生方と働けたら面白そうだと感じたこと、また、外国人がいつも隣にいる環境ならば英語の上達も早まるのではと思い、入所しました。

【編集部】英語は得意でしたか。
【若松】いえ、全くです。外国人の弁護士に挨拶するときに、「ナイス・トゥ・ミート・ユーでいいのかな」と迷うレベルでした。
M&Aの部署に配属され、業務の8割ぐらいが英語でしたが、最初はメール1通の作成に何時間もかかり、電話会議では皆が何を言っているのか分からない状況でした。
でも、文化の違う外国人とどんどんコミュニケーションが取れるようになり、全然違う考え方の中で同じビジネスのゴールを目指して進んでいくのは思った以上に楽しく、その中で英語も次第に習得していきました。

【編集部】その後、三井物産に行かれましたね。
【若松】事務所から弁護士を派遣することになり、その中で声がかかり、色々見てみるのも面白そうだと思い、行くことにしました。まだ弁護士2年目でしたが、ここが私の転機となりました。
法務部内の、主に北米、中南米を担当する部署にいましたが、常に営業の方たちの隣で投資案件などを進めていく中で、案件規模や価値評価などの数字や事業上の目的に対する意識が強まったとともに、外部の専門家としての立場から、より案件に主体的に関わってアドバイスをしていくべきという意識が目芽えました。

【編集部】出向後、ベーカー &マッケンジー法律事務所に転籍されていますね。
【若松】元の事務所のM&Aチームの一部で一緒に移籍する形でした。転籍後もそのまま M&A案件を担当していました。出向時代に中南米の案件を扱った関係で、ブラジルの案件が多かったです。

【編集部】その後、ロスに留学されたんですね。
【若松】事務所ではアソシエイトに留学の機会が与えられていたのですが、これまでオンザジョブの経験しかなく、もう少し体系的に英米法を勉強したかったのと、人脈作りもしたいという思いから志願しました。

【編集部】留学先のカリフォルニア大学ロス校ロースクールはご自分で選ばれたのですか。
【若松】はい、ロスは私の友人も住んでいて元々親しみのある街だったので選びました。気候も良く、当時まだ幼かった子どもにとっても過ごしやすい環境だと思いました。

【編集部】留学先ではどのような勉強をされたのですか。
【若松】ロースクールでは自分の好きなコースを選択できますが、私はビジネス系を選択し、M&A関係や契約を生徒同士で交渉して作り上げる授業や税法の授業などを取りました。

【編集部】向こうの司法試験を受けられたんですよね。勉強は大変でしたか。
【若松】留学期間も厳密には10か月くらいしかなく、5月の卒業後は7月の試験に向けて、予備校に行って詰め込んで勉強しました。

【編集部】どんな問題が出るんですか。
【若松】カリフォルニアでは、当時は3日間かけて、択一テスト、日本の論文試験のようなテスト、50ページを超える記録を読んでクライアント向けのメモなどを起案するテストの3部構成となっていました。特に最後のテストはネイティブではない私には大変でした。

【編集部】合格して、そのまま居着いちゃったんですね。
【若松】家族の意向もあり、残ることになりました。子どもも海外の方が褒められることが多いのですくすく育っていましたし、その時点ではもう英語が優位になっていました。私ももう少しアメリカでやりたいという気持ちがありました。
ただアメリカで仕事を探すのは大変でしたが、最終的には、現地の日本人ネットワークを通じて知り合ったJi2という会社(現Soliton Systems, Inc.)で働くこととなりました。

【編集部】どういった会社ですか。
【若松】アメリカでは、訴訟においてディスカバリー制度という相手方の持っている関連証拠の全てについて開示を求めることができる制度がありますが、同社では開示対象となる証拠のレビューを行うためのプラットフォームの運営サポート業務を行っていました。
基本的にクライアントは法律事務所が多かったので、弁護士資格を持っていることで共通の理解があり、話をスムーズに進めることができていたと思います。

【編集部】のぞみ総合法律事務所に籍を置くことになったのはどういった経緯からですか。
【若松】その会社の顧問だった当事務所の結城大輔弁護士から、ロサンゼルスにも拠点を持ちたいという話があり、私もM&A案件を含め業務範囲を広げたいと思い、参画することになりました。

【編集部】ロスにもオフィスがあるんですか。
【若松】はい、あります。渋滞を避けるため、朝8時位から家で仕事を始めて、10時過ぎに家を出て、19時頃に帰宅し、夕飯を食べたり子どもと接したりした後に21時頃から日付が変わるぐらいまで自宅で仕事をするという生活をしています。

【編集部】今はどのような案件を扱っていますか。
【若松】冒頭に述べたように、日本の会社のアメリカでの事業のお手伝いが主ですが、買収案件やジョイントベンチャーの案件、アメリカに進出した後の通常業務に関する契約書チェック、日本とアメリカでは労働法が結構違いますので労働系の相談も多いです。

【編集部】考え方が違うんですか。
【若松】アメリカでは原則解雇は自由です。とはいえ、カリフォルニアはアメリカで一番労働者保護が強い州で、簡単に解雇してしまうと、人種差別やハラスメントを理由に訴えられることが多いです。理由はしっかり準備しておかなければなりません。日本と違ってすぐに紛争に発展するので、この辺りのアドバイスが必要になります。

【編集部】日本とカリフォルニアの法律の違いについては、どう感じますか。
【若松】怖いなと思いつつも面白いです。従業員のスタンスも違いますし、きっちり法律を守らないと日本よりもそこから生じるダメージが簡単に大きくなってしまうと思います。

【編集部】ロスに行って良かったと思うところはありますか。
【若松】嫌なところもいっぱいあります。ファストフード店で注文した物が入っていないとか、宅配を頼むと配達する人が面倒くさくなったのか、届けたふりをして帰られるとか。ですが、黒人も白人もアジア人も色々な人 がいて、私も十人十色の一色という感じがします。みんな違うのが前提で、人は人、周りを気にせずフランクに付き合えるのは、アメリカの良さだと思います。例えばエレベーターの中で一緒になった人ともすぐフランクに会話をします。日本だと酔っ払ったときでもないと、そんなことしないですよね。

【編集部】お子様との会話は英語ですか。
【若松】半々です。今小学校4年生ですが、現地の学校に通っていて、土曜日だけ補習学校で日本の教科書を使って勉強しています。
日常会話はだいたい日本語でしますが、現地校の宿題を教えるときには日本語だと用語の違いもあり分かりにくくなってしまうので、英語で話します。

【編集部】弁護士の魅力は何だと思いますか。
【若松】コンサルタント的な仕事は色々ありますが、例えばビジネスコンサルだとアドバイスが合っているかどうか根拠が必ずしもあるわけではない。でも弁護士は法律という軸がありここをベースにアドバイスができるのは強みであり、面白さなのかなと。
また、クライアントからの信頼を得やすい立場にあると思います。比較的若くても色々な会社の経営陣の方々と会社の意思決定について話し合い、自分の意見を取り入れてもらえるというのは、この仕事の醍醐味だと思います。

【編集部】経営に参加しているみたいな?
【若松】そうですね。弁護士だからといって法律のアドバイスをするだけではなく、素人考えでも取りあえず言って、違えば却下してもらえばいいというスタンスで、思ったことは何でも言うようにしています。
まだ若手の頃、「会議で黙って座っているだけなら給料泥棒だ」と言われました。本当にそのとおりで、言うのは自由ですし、「お前は黙っておけ」と言われないのが弁護士という資格の良さだと思います。受け入れてもらえるかどうかはクライアントが最終的に判断することで、こちらは考えたことを意欲的に、法律以外の面でも言うべきです。それが許されるのがこの仕事の魅力だと思います。

【編集部】ワークライフバランスはどうですか。
【若松】オフィスにいなくてもパソコンがあればできる仕事だと思うので、家での時間を作るように意識しています。休暇は自分で決めるような形のため、逆にオンオフのスイッチが難しいですが、例えば子どもの学校の行事などに合わせて、休みを作ろうと思えば作れる環境にはあります。

中若松大介先生インタビュー

【編集部】先生のような働き方に憧れる人も多いと思います。まだ進出のチャンスはありますか。
【若松】仕事を見つけるにも仕事で成長するにも、人の縁が大事なのではないでしょうか。私も自分がこうしたいというビジョンを明確に持ってきたというより、縁で色々な仕事に出合い、目の前のクライアントのために、どうすればより良い結果を出せるかを軸として一生懸命やってきましたし、縁がうまく回ればチャンスはあると思います。
あとはやはり海外に行くには勢いが必要でしょうね。チャンスがありそうなときに勇気を出せば、海外でやっていくことは十分できると思います。

【編集部】これからの時代を生き抜くために若手に求められる力は何だと思いますか。
【若松】やはりアメリカはITテクノロジーが進んでいます。リーガルテックも進み、ゴールがはっきりしている作業はどんどんAIに取られていくように思います。弁護士として強みになる部分はどこか、例えば依頼者ごとの事情や個別の背景をも踏まえながら、何が論点となるのか、どういう作業が必要になるのかを判断する力などがますます重要になると思います。

【編集部】若いうちに何をしておいたら良いでしょうか。
【若松】何となく自分はこの分野が苦手だなと思って避けているものがあると思います。例えば特許のように理系の知識が必要な案件は、難しいからやりたくないなど。その要素は期を重ねれば重ねるほど強くなると思います。まだ若くて真っさらなうちに、色々なものに対してちょっと手を出してみる。私にとって英語での仕事がそうだったように、やってみたら実は好きかもしれない。
若いうちだからこそ専門分野との兼ね合いも気にせず好き勝手に、自分の知らないことの言い訳もしやすいので積極的にやると良いと思います。

【編集部】法曹志望者の激減についてはどう感じますか。
【若松】弁護士という資格があってこそできる面白い仕事が沢山あります。
極端に言えば資格取得後に弁護士をやめてもいいと思うんです。でも、弁護士になるための勉強、経験、論理的な思考力と、法律に対する考え方は、何をするにしても武器になります。会社員とは違い、自分の力で信頼を勝ち取ってビジネスを作っていける強みがあります。司法試験という入り口がある分、相対的には競争は激しくないはずです。
弁護士という職業が魅力的であることは、法曹人口が増えても、昔も今も変わっていないと思います。是非若い方々にも目指してもらいたいですね。