ゆとりーなQ&A
ゆとりーなについての、よくあるご質問です。弁護士が、4つの分野のご質問にお答えします。
なお、このQ&Aは、日本弁護士連合会 高齢者・障害者の権利に関する委員会作成「高齢者・障がい者に関するQ&A集」を元にしています。
成年後見・財産管理
成年後見制度は、認知症、知的障がい、精神障害などにより判断能力が不十分になっている人(本人)がいる場合、本人の財産や権利を保護する人を選んで、本人を支援する制度です。成年後見制度には法定後見制度と任意後見制度とがあります。
法定後見制度は、判断能力の程度に応じて、家庭裁判所から選任された成年後見人、保佐人、補助人が、法律で認められた権限に応じて、本人の財産や権利を保護する制度です。
任意後見制度は、本人が、将来判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめ信頼できる人(任意後見人となる人)に依頼したい内容の契約をしておき、その後本人の判断能力が不十分となったときに、裁判所の監督の下で、任意後見人が依頼内容に従って本人の財産や権利を保護する制度です。
成年後見人は、財産に関する法律行為(契約等)について包括的(全体的)に代理する権限を持っています。被後見人(本人)の行った行為を取り消すこともできます(取消権)。
保佐人は、民法第13条1項に定めている行為(重要な行為)について本人の行為に同意を与えたり(同意権)、保佐人が同意しないのに本人がしてしまった行為を取り消したりします。さらに、家庭裁判所への申立てにより、同意見・取消権の範囲を増やしたり、特定の法律行為について本人を代理したりすることもできます。
補助人は、家庭裁判所への申立てにより、民法第13条1項に定めている法律行為の一部について同意や取消しをしたり、代理をしたりします。
なお、成年後見人・保佐人・補助人のいずれも、本人の行った日常生活に関する行為を取り消すことはできません。
任意後見制度は、将来判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめ信頼できる人(任意後見人となる人)に依頼したい内容の契約をしておき、その後本人の判断能力が不十分となったときに、裁判所の監督の下で、任意後見人が依頼内容に従って本人の財産や権利を保護する制度です。依頼内容は、例えば、本人の生活に関する事柄(介護サービス契約など)や、財産の管理に関する事柄の全部または一部などです。
この委託の契約(任意後見契約)は、本人と、依頼される人(任意後見人となる人)とが、公正証書によって結びます。
任意後見契約を結んだ後、本人の判断能力が不十分となったときに、家庭裁判所に任意後見監督人を選ぶように申し立てます。
任意後見監督人が選ばれると、任意後見契約の効力が発生し、本人から依頼を受けた人が、任意後見人として、任意後見契約により本人から委託された内容を、本人に代わって行います。
家庭裁判所に法定後見制度を申し立てる場合と比べて、①本人が信頼する人を後見人にできること、②成年後見人に依頼する事柄を契約で柔軟に決められること、③後見の事務にあたって本人の意思を尊重できることがメリットとなります。
なお、任意後見人には取消権(Q 成年後見人等の職務 参照)がありませんので、本人が消費者被害にあってしまった場合などには、本人が結んでしまった契約を当然には取り消すことができません。この場合、消費者問題を規制する法律を使って対抗することになります。
住み慣れた地域で安心して生活するためには、ご自身の財産を適切に管理することが必要です。ところが、預貯金の預入れや引出しを行うために金融機関まで出歩くことが難しかったり、賃貸不動産などの管理が負担になる場合があります。また、財産の管理のために複雑な内容の契約を結ぶ必要がある場合があります。
そのような場合に、財産管理を任せる契約が財産管理契約です。高齢者や障がいをお持ちの方で、財産管理に負担を感じる方や財産管理に不安のある方のために、依頼を受けた弁護士が、依頼者と共に、あるいは依頼者に代わって財産管理を行います。この契約を結ぶことにより、弁護士が財産の管理について本人に助言等を行ったり、預貯金・不動産の管理や契約の締結を本人に代わって行ったりして、本人の財産全般の管理を行うことになります。
契約ですので、本人に、ご自身の財産状況や依頼内容を理解し、物事の是非を判断する能力があることが前提になります(判断能力が将来低下した場合に備えて任意後見契約を併せて結ぶこともできます。)。
成年後見人が医療契約を結び、費用の支払を行うことで、本人は、比較的危険を伴わない一般的な医療項を受けることができます。
しかし、本人のためになることだと考えられても、健康診断の強制や入院の強制など、身体に対する強制行為はできません。
また、ご質問では手術の可能性があるということですが、成年後見人には現在のところ、手術など本人の身体を傷つけること人もなる医療行為(医的侵襲行為)に同意する医療同意権は認められていません。そのため、医療機関が、成年後見人に対し、手術について決定や同意を求めてきた場合には、そうした同意見を有しないことを説明して理解を得、本人の意向を確認します。本人の意向を確認することができない場合は、医療機関による緊急の対応としての手術や医療行為を求めることになります。
ホームロイヤーとは、福祉関係者と連携し、高齢者の日常生活を継続的かつ総合的に支援(日常生活上の法的助言や財産管理、遺言作成等)する弁護士のことをいいます。医師でいうかかりつけ医(ホームドクター)のような法律家、いわば「かかりつけ法律家」と言えるものです。
超高齢社会を迎え、高齢者の加齢に伴う判断能力の低下や身体能力の低下により、財産の管理や身上に関する契約(介護契約)などの法的支援の必要性が増しています。また、高齢者が消費者被害や高齢者虐待の被害者となる事件が多発する中、高齢者・障がい者への権利侵害を予防することも重要となってきています。
ホームロイヤーは、高齢者を継続的かつ総合的に支援するという観点から、定期的な見守り、法律相談、福祉機関や各種専門職との連携を通じて生活支援を行います。また、ライフプランノートの作成などを通じて、高齢者の意思を確認し、支援方針を検討するなどします。必要に応じ、財産管理や任意後見契約、遺言作成等の各種法的支援を行います。
高齢者・障がい者の生活上のトラブル
高齢者の年金は、老齢基礎年金、老齢厚生年金及び老齢共済年金があります。障がい者の年金は、障害基礎年金、障害厚生年金及び障害共済年金があります。
基礎年金はすべての国民に共通するものですが、民間企業および団体で勤務していた方に対する厚生年金、ならびに官公庁および私立学校で勤務ていた方に対する共済年金は、基礎年金に上乗 せする形で年金が支給されることになっており、二階建ての年金給付のしくみをとっています。なお、老齢福祉年金というものもあります。生年月日が大正5年4月1日以前の方に支給されている年金は、これにあたる場合があります。詳細は、お近くの年金事務所にお問い合せください。
介護保険とは、高齢者の介護を社会全体で支え合う仕組みのことです。65歳以上で介護や支援が必要な方や、40~64歳で末期がん・関節リウマチなどの老化による病気が原因で介護や支援が必要になった方は、所得にかかわらず利用料の1割を負担して介護サービスを受けることができます(残りの9割は、介護保険料や税金で賄われます。)。
介護保険で利用できるサービスの内容は、介護が必要な程度によって決まっており、市町村から認定を受ける必要があります。どの程度の介護が必要かの目安として、軽い順に「要介護1」~「要介護5」までの5段階が定められており、要介護度によって利用できるサービスの量が決まっています。また、要介護状態になる可能性が極めて高い状態として「要支援」という段階があり介護予防サービスの利用が可能です。
利用される際には、市町村の相談窓口や、居宅介護支援事業所、在宅介護支援センターに一度相談してみてください。
福祉サービス契約で決めるべき最低限の事項は、サービスの内容と利用料です。
その他にサービスの提供にあたって発生が予想される事項について定めるとトラブル防止となります。例えば、契約の有効期間・利用料(自己負担部分)の支払方法、ケアプランの変更やキャンセルの方法、ヘルパーの交代の取り扱い、解除権発生事由、病気・事故の場合の対応です。
契約の内容を明確にするためにも書面にし、また契約内容について充分に説明を受け理解した上で契約するよう留意する必要があります。
利用者の権利が制限される場合や利用者の義務について、誤解のないよう説明を受け十分理解することが必要です。またよりよいサービスを受けるには、よい事業者を選択する必要もあります。事業者の実績や専門家がどれだけいるのかなどあらかじめ調べておくとよいでしょう。
働く能力・収入・資産がなければ、生活保護を受給して不足分を補うことが考えられます。窓口は福祉事務所ですので、役場にお問い合わせください。なお、福祉事務所に相談に行っても、「子どもさんに援助してもらって」「もう少し仕事探してみたら」などといって、申請用紙すら渡さずに追い返してしまう、「水際作戦」と呼ばれる対応をされる事例があります。そのような対応は違法ですので、もしもそのような対応をされたときは、お近くの弁護士会に相談してください。弁護士が同行して申請することが可能です。弁護士費用は無料になる場合もあります。生活保護の申請はしたものの却下されてしまったというような場合も、審査請求や行政訴訟等の手段がありますので、弁護士会に相談してみてはいかがでしょうか。
すぐに、クーリング・オフ(無条件で契約を解除できる制度)の通知を書面で出してください。訪問販売の場合、契約書を受け取ってから8日以内という制限がありますが、契約書の不備やクーリング・オフ妨害があれば、8日間を過ぎていてもクーリング・オフは可能です。違約金を支払う必要はありません。商品の引き取り費用は業者が負担し、既に払ってしまったお金を返してもらうことができます。
クーリング・オフができない場合であっても、事業者が契約を勧誘した時に、事実と異なることを話したり、大事なことを告げていなかった場合、契約の取消しを主張することができます。また、契約について思い違いがあったとして、契約が無効であると主張することもできます。だまされて契約を締結した場合は、詐欺による契約の取消しを主張することができます。
さらに、訪問販売において、日常生活に必要な分量を著しく超える商品を購入した場合は、契約から1年以内であれば、契約を解除することができます。1年を過ぎてしまっても、消費者契約法による取消しや不法行為に基づく損害賠償請求ができる場合もあります。
判断能力が不十分な方の場合、成年後見制度(成年後見・財産管理Q2参照)を利用していれば、簡単に契約を取り消すことができた可能性があります。今後のために成年後見制度の利用も検討した方がよいでしょう。
以上のような手続を行うときは、個別のケースに応じて適切な方法が変わってくることもありますので、「ゆとり~な」の常設相談などを利用してご相談ください。消費者被害については消費生活センター、成年後見制度については地域包括支援センターの無料相談を利用することも考えられます。
低金利の時代が続くと、年金だけで生活している高齢の人にとっては、将来の生活への不安も生じてきます。悪質な業者がもうけ話をもちかけ、勧誘して、高齢者が被害に遭うケースが増えています。中には、以前受けた被害を回復するための新たな勧誘により再度被害に遭うケースもあります。
業者が未公開株などの金融商品を取り扱うには内閣総理大臣の登録が必要で、登録されている業者かどうかは金融庁のホームページで確認することができます。無登録業者による未公開株などの売りつけは、犯罪ですし、売買は無効になります。また、登録業者による詐欺行為も多数問題となっていますから、上記ホームページ等で登録が確認できたとしても、それだけで信用してしまわないように注意してください。
「値上がり確実」、「必ずもうかる」などと言ってくるケースもありますが、そのようなうまい話はありませんので、絶対に断るべきです。既にしてしまった契約については、詐欺や不確実なことについて断定的な判断を提供されたなどとして、契約を取り消すことが考えられます。
このような手続を行う際には、個別のケースに応じて適切な方法が変わってくることもありますので、「ゆとり~な」の常設相談などを利用してご相談ください。消費生活センターの無料相談を利用することも考えられます。高齢者本人が騙されていることに気づかない場合、あるいは騙されていることを認めたがらない場合も多く見られますが、ご本人に、詐欺にあったのだということを説明し、相談に向かわせることが大切です。
なお、このような悪質業者は、時間が経つと行方が分からなくなるなど被害を回復することが難しくなることが多いので、早めのご相談をおすすめします。
平成18年4月1日から高齢者虐待防止法が、平成24年10月1日から障害者虐待防止法が、それぞれ施行されています。身体的虐待(暴力など)、ネグレクト(食事を与えないなど)、心理的虐待(暴言など)、性的虐待(わいせつな行為など)、経済的虐待(お金を渡さないなど)のいずれかを受けたと思われる高齢者・障がい者を発見したときは、市町村の高齢者虐待対応窓口や障がい者虐待対応窓口等に通報しなければならないことになっています。
通報を受けた市町村は、家庭における養護者による虐待であれば、高齢者・障がい者の安全確認や虐待の事実確認をしたり(警察の援助を受けて立入検査をすることもあります。)、一時的に高齢者・障がい者を保護するため施設に入所させたり、判断能力の不十分な高齢者・障がい者の成年後見人を選任するよう家庭裁判所に申立てをしたり、虐待に及んでしまった養護者を支援して虐待のない環境づくり等を検討することになります。施設等の職員による虐待であれば、監督権限を使って、立入調査等による事実確認や勧告・指定取消等の処分を検討することになります。職場で雇主が障がい者に虐待を行っている場合は、労働基準監督署などが労働基準法などに基づく権限の行使を検討することになります。
いずれの場合も、通報先は、市町村の高齢者虐待対応窓口や障がい者虐待対応窓口で結構ですので、速やかに通報してください。
有料老人ホームをはじめとする高齢者の施設は、介護サービス等を提供するにあたり、利用者の生命、身体、財産などの安全に気を使わなければならない義務を負っています(一般的に「安全配慮義務」と呼ばれています)。そのため、施設は、利用者の心身の状況について、利用者が抱えている問題を詳しく調べ、どのような支援をするのかよいか、今行われている支援が正しいかを評価(アセスメント)し、その評価を基にいろいろな対応をしなければなりません。
もし、介護事故が起こった理由が、利用者が抱える問題を調べていなかったり、問題に対する対応が十分でなかったりするような場合には、施設は、利用者に対し責任を負わなければならない、ということになります。したがって、まずは、施設に対し事故の状況、原因、アセスメントの中身などについて十分に説明をしてもらってください。施設は、介護事故が発生した場合、市町村に対し、事故報告書を作って提出しなければならないルールになっていますので、事故報告書を見せてもらったり、報告書の写しを求めてみてください。施設に対する請求の中身としては、入院費や慰謝料などの金銭の賠償と事故の再発防止の請求が考えられます。施設が金銭賠償をする場合、ふつうは、施設が入っている保険で支払われます。もし、施設から提示された金額に疑問がある場合には近くの弁護士に相談してみてください。
高齢者が住み慣れた自宅を離れて、高齢者のための居住場所(住まい)を探す場合、住居系と施設系があります。
住居系には、サービス付き高齢者向け住宅、シルバーハウジングなどがあり、自宅と施設の中間的な位置づけとなっています。
施設系には、特別養護老人ホーム、養護老人ホーム、老健(介護老人保健施設)、ケアハウス(軽費老人ホーム)、認知症対応型グループホーム、介護療養病床、有料老人ホームがあります。
このように、高齢者の住まいは現在多くの種類があり、非常にわかりにくくなっています。事業者と契約をする場合には、どのようなサービスや住環境が提供されるのかなど、契約書、重要事項説明書をよく確認することが必要です。また近時は、未届け施設問題(有料老人ホームとして都道府県に届け出る義務があるにもかかわらず、届出をしていない施設)や、有料老人ホームにおける入居一時金の返還に関するトラブル等の施設とのトラブルも報告されています。
適切な住まいを探すには、ケアマネジャーや市町村、ホームロイヤーなど、様々な支援者・支援機関と相談したり、実際に施設を見学するなどして情報収集をすることが重要です。
障がい者問題
精神障がいのある人の場合、本人が受診して適切な医療を受けることが必要ですし、場合により入院による治療を受けることが必要なこともあります。しかし、「すべての精神病者は可能な限り地域において生活し働く権利をもっている」( 1991.11.29国連総会-「精神病者の保護及び精神保健ケアの改善」に関する決議-)のであり、特に必要性がない場合にまで入院する必要はありません。医療機関や保健所等の相談窓口に相談のうえ、入院の必要性があるか相談することが先決です。
また、精神障がいのある人の地域生活を支援する上では、医療と福祉が共同してその生活を支え、環境を整備することが重要です。障害者総合支援法において、相談支援事業所が各市町村に設置されていますので、福祉サービスの利用・環境調整についての相談をしてみてはどうでしょう。
逮捕には、現行犯逮捕、裁判所の逮捕状に基づく通常逮捕、緊急を要する場合で一定の条件がある場合に逮捕される緊急逮捕の3つがあります。いずれの場合も、逮捕されてから最大72時間(3日間)、警察の留置場に入れられます。さらに、裁判所が拘束することを認めた場合には、引き続いて最大20日間身体が拘束されます。犯人と疑われ逮捕された人は、逮捕されたときに、弁護人を呼んでもらうよう求めることができます。裁判所が拘束することを認めた後は、一定の事件について、国選弁護人をつけてもらうこともできます。犯罪をしたと疑われているといっても、その人が犯人とは限りませんし、仮に犯人であるとしても、事件については色々と言い分がある場合があります。警察官や検察官による取調べについて、弁護士からなるべく早くアドバイスを受ける必要があります。
障がいのある人の場合は、判断能力やコミュニケーション能力が不十分な人も多いので、1.誘導などによって嘘の自白調書が作られないよう、警察官や検察官にその人の障がいの特性を理解してもらう必要があります。また、2.その人の障がいに配慮し、拘束場所である留置場などでの対応の改善を求めたり、身体拘束から早く解放されるようすることも必要になります。
このようなことをするためには、弁護士のアドバイスや活動が重要です。日弁連では、逮捕された本人あるいはその親族・知人からの求めにより、警察署など本人の身体が拘束されている場所に弁護士を派遣します。最初の面会費用は無料です。
なお、東京三弁護士会では、2014(平成26)年4月から、知的障がい者等の刑事弁護において、障がい者の対応をするための研修を受け、名簿登録された弁護士を派遣するという制度が始まっています。詳しくは、「もし、逮捕されたら?」をご覧ください。
なお、本人が20歳未満の場合には少年事件となり、成人とは別の手続きで処分が行われますが、この場合にも弁護士を派遣する制度が弁護士会に設けられていますので、お問い合わせください。
刑法39条は、精神の障がいなどによりものごとの善いことと悪いことを判断したり、その判断に従って行動することができない状態にある人がしたことは処罰しない(無罪)とし、また、そのような判断をする力が著しく低下している状態にある人がしたことについては、一般の人が同じことをした場合に比べてより軽い刑で処罰するとしています。善悪を判断する力が十分ある人が、意図的にあるいは不注意で法律に違反する行為をすれば、社会から非難を受け、刑罰を与えられます。判断する能力がないとか著しく低下している人は、自分がしていることの意味を十分に理解できませんから、法律を守って行動するよう求め、非難して処罰するのは難しいです。精神鑑定は、犯罪行為をした人の判断能力の状態がどのようであるかを調べるために行うものです。ただし、精神障がいがあるからといって、当然に判断能力がないとか著しく低下しているということにはなりません。精神障がいのある人の多くは日常生活を普通に送ることができます。精神障がいのある人が、一律に判断能力がなく、処罰されない人だということではありません。
知的障がいのある人がたとえば窃盗をした場合、自分のしたことはよいことかどうかと聞くと、それは悪いことと答える場合があります。
本人が、その行為が「悪いこと」と言ったから、本人は善いことと悪いことの判断をする力が十分にあるから責任を問うことができ、処罰をすることができるかというと、直ちにそうであるということはできません。本人は、もしかすると、これまでの生活の中で教えられてきたままに、だめなことはだめというような結論だけを機械的に言っているだけかもしれません。
知的障がいのある人は、抽象的に考えることがうまくできません。悪いといっても、その意味をどのように理解しているのかを考えてみる必要があります。人の物を盗めば警察につかまるということや、刑務所に入れられるのは悪いことをしたからだということが分かっていたとしても、悪いことをすることの社会的な意味、その結果が周囲に与える影響などを考える能力が不十分で、自分の欲望に駆られるままに犯罪をしやすく、自立して社会生活を送れないというような人もいます。知的障がいのある人について、裁判で、ものごとの善いことと悪いことを判断したり、その判断に従って行動する力が著しく低下していると判断されれば、一般の人が同じことをした場合に比べてより軽い刑で処罰されることになります。ものごとを抽象的、論理的に考える能力がどの程度あるのかということは、鑑定により、医学などの専門家の意見を聞きながら判断することになります。
知的障がいのある人には、いくつかの特性があり、そのことが十分に理解されないと、取調や裁判のときに、反省していないとか危険な人であると受け止められ、判決で思いもよらない刑罰を受けるおそれがあります。知的障がいのある人は、
1.抽象化、一般化することが苦手です。
どうしてと理由を聞かれたり、どれくらいという量や程度を聞かれてもうまく答えられません。具体的な事実を1つ1つ確認していかないと、事実の判断を誤ることになります。
2.計画や見通しを立てることが苦手です。
先のことをいくつも聞いても頭の中に入りません。理解でことから1つずつ話したり絵や写真など視覚で理解できるようにして話をしていくことが必要です。
3.コミュニケーションを取ることも苦手です。
これまでの生活で、自分を否定されてきた(お前はだめだ、人の言うことに従っていればいい等)ため、自分に自信がなく、人に合わせる生き方をして来ている人は多くいます。取調のときに強い口調で尋問されたり、誘導尋問や特定の答えを期待されているような態度で質問をされると誘導に乗ったり、尋問者の意向に沿った話をしてしまいがちです。
知的障がいのある人にはこのような特性かありますから、取調のときからこのような特性を理解して、間違った事実確認がされないようにする必要があります。本人の述べたことが法廷に証拠として提出される場合、それは質問者のどのような質問と態度に対してそのような答えがされたのかという具体的な取調の状況と一緒でなければ、本人の述べたことが信用できるかどうか判断できません。
検察庁では、知的障がいのある人のこのような特性を考え、知的障がいによりコミュニケーション能力に問題がある人を取り調べる場合は、取り調べの過程を録音・録画し、心理・福祉関係者に取り調べに助言や立会をしてもらうことを試行的に取り組んでいます。
遺言・相続
誰かがお亡くなりになることにより(お亡くなりになった方のことを「被相続人」といいます。)、相続が開始しますが、遺言が残されていない場合には、法律に従って次の方々が相続人となります。それぞれの場合で法定相続分が異なることに注意が必要です。
1.配偶者(常に相続人となります。)
2.子
配偶者と子が相続人の場合、法定相続分は配偶者 1/2、子 1/2。
3.(子がいない場合)父母など直系尊属
配偶者と直系尊属が相続人の場合、法定相続分は配偶者2/3、直系尊属1/3。
4.(子も直系尊属もいない場合)兄弟姉妹
配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合、法定相続分は配偶者3/4、兄弟姉妹1/4。
ところで、相続人となるべき者が亡くなっている場合にその者の子が代わって相続人になることを「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」といいます。2の「子」が相続人となる場合は、その子(被相続人の孫)が代襲相続人になり、その子も亡くなっていれば、さらにその子(被相続人のひ孫)が代襲相続し(再代襲相続人)、代襲は延々と続きます。但し、4の「兄弟姉妹」が相続人となる場合は、代襲は、相続人となる者の子(被相続人からみて、おい、めい)までとされています。
相続財産には、死亡された方が死亡時に有していた一切の権利と義務が含まれます。
権利だけでなく義務も含まれますので、例えば借金・保証債務などの負債も相続財産となります。
なお、死亡された方のみが行使することのできる権利(一身専属権といいます。たとえば、親族に対する扶養請求権、配偶者に対する夫婦の共同の生活の維持のための費用(婚姻費用)の分担請求権などがあります。)や、祭祀財産(系図・仏壇や位牌・お墓など)は含まれません。また、死亡された方が契約していた生命保険契約の死亡保険金は、相続財産には含まれません(受取人とされた方の権利となります。)。ただし、死亡保険金の受取人が「被相続人」と指定されている場合は、保険金は相続財産となります。受取人がどのように指定されているかは念のために確認しておくのがよいと思います。
借金も相続されます。相続開始と同時に法定相続分に応じた額で分割されて相続されます。相続人が借金の負担を免れたい場合は、相続放棄(民法938条)又は限定承認(民法922条)をする必要があります。
相続放棄とは、財産も負債も一切相続しないという制度であり、限定承認とは、被相続人の相続財産の限度で負債を清算する(残った負債は相続しない)制度です。いずれも自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所に対して相続放棄又は限定承認の手続をする必要があります。また、限定承認をするには、相続人全員で行う必要があります。
なお、相続開始後に相続財産を処分等すると単純承認と見なされ、相続放棄や限定承認ができなくなることがあるので注意が必要です。
被相続人が亡くなった場合、相続財産(遺産)は、相続人に移転します。相続人が1人であれば、遺産は相続人1人のものになります。相続人が何人もいる場合は、遺産は相続人全員(共同相続人)が皆で所有(共有)することになるので、相続人の間で分けることが必要となります。この手続が遺産分割です。
遺言があれば遺産は遺言に従って分けられます。遺言がなければ、共同相続人の間で遺産分割の話合い(遺産分割協議)をすることになります。遺産分割の話合いがまとまらないときは、家庭裁判所に調停という手続を申し立てて、裁判所に間に入ってもらって話合いをすることになります。調停で話合いかつかない場合は、審判という手続に移り、家庭裁判所に遺産の分け方を決めてもらうことになります。
共同相続人の中に、亡くなった人(被相続人)の財産を維持(同じ状態のままに)したり、財産を増やすことに特別に役に立った人がいる場合、「寄与分」(民法904条の2)として、法律で決められた額よりも多く財産を相続することができる場合があります。
寄与分が認められるためには、亡くなった人に、法律上の義務を超えるような特別なことをしてあげることと、亡くなった人にしてあげたことで、亡くなった人の財産が維持されたり増えたことが必要となります。
子どもによる母の介護が、法律上の義務がないのにしたものであり、子どもによる介護により母の財産が維持されたり増えたりした場合は、寄与分が認められると考えられます。
寄与分としてどれくらい多く財産をもらえるかは相続人同士の話合いでで決めますが、話合いがつかない場合は、家庭裁判所に決めてもらうことになります。
共同相続人の中に、亡くなった人(被相続人)から遺贈を受け、または婚姻、養子縁組のため、生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始時に保有していた財産の価格にその贈与の価格を加えたものを相続財産の総額とし、その総額から各人の相続分を算定し、その算定された相続分から贈与などの価格を引いた残りの額をその者の相続分とするとされています。
今回の事例では、兄が父から受けた援助の額も相続財産の総額に加えられ、そこから兄の相続分を算出し、その算出された相続分から援助を受けた額を引いた残りの額が兄の相続分となります。
遺言とは、人の生前における最終の意思に法律上の効力を認め、死亡後にその意思の実現を図る制度です。
遺言は、民法に規定する方式によらなければ効力を生じません。
また、遺言は、法律上の効力が認められる事項が限定されています(このことを「法定遺言事項」といいます。)。法定遺言事項としては、相続分や遺産分割方法の指定、遺言執行者の指定、遺贈(遺言によって無償で財産を与えること)、祖先の祭祀主宰者の指定、生命保険金受取人の指定、信託の設定などです。
葬儀の依頼についてですが、葬儀の喪主をある人に指定することは、前記の法定遺言事項に当たりますので、法的効力が認められます。しかし、葬儀をどのように行うかの具体的方法については、法定遺言事項には当たりませんので、遺言に書いても法的効力は認められません。ただし、そのようなことを書いたからと言って遺言が無効となるわけではなく、少なくとも依頼先にあなたが依頼した内容の葬儀を行うことについての道徳上の義務を負わせることができるといえます。また、例えば、遺言で財産をもらう人に対して、葬儀を遺言に書いたとおりに行うことを負担させる(これを負担付遺贈といいます。)という内容の遺言であれば、遺言で財産をもらう人は、遺言で書いた内容の葬儀を行う義務を負うことになります。
遺言には、主に、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
1.自筆証書遺言は、遺言をする人がすべての文章、日付及び氏名を自分で書き、印鑑を押して作ります。ただし、書き方や中身を間違えて作ってしまうと、遺言として認められない場合もありますので注意が必要です。
なお、自筆証書遺言には、「検認」という手続が必要です。遺言書を保管している人は、遺言をした人が亡くなった後、速やかに、家庭裁判所に提出して遺言書の確認をしてもらわなければなりません。封をしてある遺言書は、家庭裁判所で相続人の立ち会いがなければ封を開けられません。封のしてない遺言書は、そのままの状態で家庭裁判所に提出すれば足ります。遺言書の内容を早く明らかにして偽造されることを防ぐためにこのような手続が定められているのです。家庭裁判所は、検認した証明書を遺言書に付けてくれます。遺言書を家庭裁判所に提出しなかったり、検認をしないで遺言執行をしたり、家庭裁判所以外の場所で封を開けた場合は、過料に処されます。
2.公正証書遺言は、公証人に公正証書という形で作ってもらう遺言です。公証人という専門家が間に入りますので、書き方や中身を間違えて作ってしまって無効になるということはほとんどありません。
公正証書遺言については、偽造のおそれがないと考えられますので、検認の手続は必要ありません。
3.秘密証書遺言は、公証人や証人の前に、封筒に封をしてとじ目に印を押した遺言書を提出して遺言書があることは明らかにしながら、中身を秘密にして遺言書を保管することができる方式の遺言です。秘密証書遺言についても検認の手続が必要です。
亡くなった方の兄弟姉妹以外の相続人には、相続財産の一定の割合を受け取る権利が認められています。これを「遺留分」といいます。
相続人が受け取ることのできる割合は、相続人に配偶者や子・孫などがいる場合は、相続財産の2分の1、父母、祖父母など直系尊属のみが相続人の場合は相続財産の3分の1になります。そして、相続人が何人もいる場合、相続人1人あたりの遺留分は、相続財産の2分の1又は3分の1にさらに法定相続分の割合(Q 相続財産の範囲 参照)をかけたものとなります。
父親の遺言はあなたの遺留分を害するものであり、あなたには遺留分を取り戻す権利があります。しかし、遺留分を取り戻すには、遺言で財産を得た弟に、弟が得た財産を減らしてその分あなたに戻すよう請求(遺留分減殺請求)しなければなりません。請求できる期間には法律上制限がありますので、早めに弁護士に相談したほうがよいでしょう。
